2017年はP&Gのマーク・プリチャード氏の啓発により、業界全体が透明性の改善に向けて動き出しました。その結果、P&Gではメディア投資の効率化が進み、1億ドル以上(マーケティング予算のおよそ2%)を削減したにも関わらず、売上高の増加を報告しています。効率化の動きは今後も続き、2018年は日本でも増加するデジタル広告予算が広く見直されるでしょう。
効果の低いメディア投資を削減しても、効率化の限界はすぐに訪れます。これから先、私たちはデジタル広告の質を大きく向上させなければなりません。しかし、生活者が視聴の主導権を握るデジタル広告には、従来のマス広告とは異なる「質」の考え方が必要となります。
生活者の状況というコンテクストを無視した広告が、受け入れられることはありません。広告にコンテンツとしての価値がなければ、十分なアテンションを獲得する事はないでしょう。そしてコミュニケーションが現在のブランドに対する認識を捉えなければ、購買に至る態度変容を起こす事はありません。
受け入れられるためのコンテクスト
一人ひとりの状況に合わせて、広告をパーソナライズする事はまだ現実的ではありません。そのため、Facebookは広告主のために、メディア消費の状況を3つに分類しています。生活者が特定の情報を積極的に求め、「前のめり」になっている状況を”Lean Forward”、移動中でSnackable(つまみ食い可能)なコンテンツを消費している状況は”On the Go”、そして、目の前に流れるコンテンツを消極的に消費する状況を”Lean Back”と言います。それぞれの状況では、広告に対する受容率や、受容される広告の種類が異なります。
アテンションを獲得するコンテンツ
生活者の状況うまく捉えても、広告の内容に価値がなければ、視聴者のアテンション(注目)を獲得することはできません。広告の内容を評価する4-Dモデルは、アテンションの獲得・維持に必要な属性を新規性、有用性、好感性、そしてユーモアに分類しています。調査からは、アテンションの獲得にこれらの要素のどれかが必ず必要であり、ユーモア単体では効果が無いこともわかっています。
態度変容を起こすコミュニケーション
ブランドのアイデンティティーを確立することが主な役割であるテレビ広告とは異なり、デジタル広告にはカスタマージャーニーの段階ごとにさまざまな役割が存在します。高精度なターゲティングを活かし、特定のセグメントの需要を喚起すること、またはインサイトに適した購買口実を提供すること。購入意向を持つ見込み顧客を刈り取ること、そして既存顧客にリピート購入を促すこと。
ジャーニーの段階ごとに生活者とブランドの距離は異なり、適したコミュニケーションも異なります。態度変容を軸とした設計が無ければ、せっかく視聴された広告も、その効果を発揮する事はありません。
コンテクスト、コンテンツ、そしてコミュニケーションの質を改善することで、デジタル広告は生活者に受け入れられ、そのアテンションを獲得し、購買行動を起こすことができるようになるのです。そして、その効果は一時的に改善するだけでなく、粒度の細かい仮説検証により、継続的に改善が可能になるのです。デジタル広告予算は2018年以降も増え続け、テレビとの相乗効果の実現が、今後多くの広告主の課題となります。質だけでなくスケールの大きなテレビ広告を支えるために、デジタル広告は効率化だけでなく、質の向上を通じた効果の継続的な改善に向けて突き進むべきなのです。
※本記事はDIGIDAYに寄稿したコラムを転載しています。