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個々の能力に頼らない、有能なマーケティング組織の作り方:目的管理の極意とは

荻野 英希 /

人は、自らの状況を改善するために行動を起こします。その裏には必ず目的が存在し、意識をしなくても、私たちの目的と行動は必ず連動しています。しかし、一個人では当たり前なこの連動も、集団行動には該当しません。どれほど優秀な人材も、一度集団に加われば簡単に目的を見失い、感情や主観的な判断に流されてしまう可能性があります。

フランスの心理学者、ギュスターヴ・ル・ボンは、集団の愚かさを描いた『群衆心理』のなかで、「どれだけ知性のある人物も、集団の一部となった途端、考えられないほど愚かな行動を起こす」と述べています。これは、集団が組織として機能するために、有能な人材を投入しても無駄であることを意味しています。有能な組織は、個々の能力の集積ではなく、その行動を左右する目的の管理によってもたらされるのです。

多くのビジネスリーダーを輩出するハーバードなどのアイビーリーグ校は、学問だけでなく、ローイングなどの団体競技を通じたチームワークの習得を重視します。これは将来のリーダーに、チーム全員のアラインメントが個々の能力に勝ることを認識させるためです。集団が組織として機能するためには、その目的を意識的に管理し、個々の行動と連動させる以外に方法はありません。

アライメントの実現にもっとも効果的な手法は、組織全体における一連の目的と、成果指標を定義することです。指標の意味や関係性を従業員全員が理解してはじめて、組織として機能することができるのです。そのためには、経営陣や上級管理職による、段階的な目的と指標の設計が必要になります。

目的の共通認識を図るために、S.M.A.R.T.という効果的な目的定義の手法があります。SのSpecificは具体性を意味し、目的に解釈の余地が無い状況を示します。MのMeasurableは効果や途中経過の計測が可能であること、AのAchievableは目的の達成に向けた資源が確保されていること、RのRelevantは上位目的に合致していること、そしてTのTime-Boundは時間制限が設けられていることを示します。

※Time-Boundは、Measurableに内包されるという考え方もあります。その場合は、RelevantのRを、一貫性を意味するConsistentのCに置き換えた、S.M.A.C.というアクロニムが用いられます。

組織の目的定義における主な課題は、Relevantの段階にあります(S.M.A.R.T.のRは、ときにはRealisticと定義されることもありますが、この定義はAchievableと重複するだけでなく、目的間の階層的相互関係を排除しています)。組織のアラインメントを実現するためには、指標の段階的相互関係を通じてビジネスの全体像を描き、従業員一人ひとりの業務が事業目標となる収益成長や、より大きなビジョンなどの目的に貢献していることを可視化する必要があります。

目的間の階層的相互関係を描くためには、指標の因数分解を行います。マーケティング施策の主な目的は事業目標である収益成長です。しかし、これだけでは解釈の余地が生まれてしまい、具体的な施策内容の合意に至ることができません。「収益成長→新規顧客獲得→既存セグメントの顧客シェア向上」というように事業目標を実施目標へと分解することで、担当実務者が達成すべき目標が明確になります。

経営者や上級管理職は事業目標ばかりを重視し、末端の実施目標との関係性を十分に理解しないことが往々にしてあります。そして、業務を担当する実務者は自身の実施目標が何であり、上位目的の関係性がわからないことに悩んでしまうのです。理想的には、経営陣や上級管理職が事業目標から戦略目標までを設定し、実施目標の設定を担当実務者に委任すべきでしょう。これにより、経営陣や上級管理職は細かい施策内容の監督業務から開放され、戦略的業務に集中できます。そして、実務者も戦略や指標の優先順位を上司と十分に議論し、戦術を任せられることで、業務に主体性と責任を感じるようになるのです。この目的と指標の設計を通じた組織のアラインメントと動機付けこそが、リーダーの仕事ではないでしょうか。

組織に目的の共通認識が備われば、ビジネスの改善に必要な戦略を周知し、パフォーマンスを向上させることが容易になります。それぞれの従業員が自身の責任範囲に適した業務を遂行し、マイクロマネジメントや不毛な論争の必要がなくなるのです。多くのマーケティング組織が実際には主観と感情に流される「脆弱な集団」であるという状況下で、目的管理の能力は圧倒的な競合優位性をもたらすはずです。

※本記事はDIGIDAYに寄稿したコラムを転載しています。

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