この異常な状況の下で、多くの人が通常どおりの広告に多少ながらの違和感を感じていると思う。パンデミックによって私たちの環境は劇的に変化し、広告の大半がその文脈から外れてしまっている。平静を装い、いままで通りのコミュニケーションを続けても、焦って短期的な収益の回復を試みても、大した効果は見込めない。前代未聞の状況に対応しなければならないマーケターが、いま行うべきことは一体何だろうか?
最初の反応は、何らかの形でこの危機的状況に貢献し、困窮している人々を助けようとすることかもしれない。しかし、いくつかの重要な製品やサービスを除いて、新型コロナウイルスとの戦いに直接的な役割を果たすことができるブランドは極めて少ない。これらのブランドの多くは、適切なコミュニケーションを行うことができず、広告出稿の大幅な削減や停止を行なっている。
消費者需要が低迷するなか、広告出稿を控えることは賢明な判断だと思うかもしれない。しかし、Marketingweekとeconsultancyの調査によると、これは長期的かつ大きな損失につながる可能性もある。イギリスの実在するビールブランドのシミュレーションで、広告出稿を完全に停止した結果、マーケットシェアが13%低下したが、広告費の削減を50%に抑えた場合、その損失は1%に留まったというのだ。広告を停止することで、ブランドは回復が困難なほど弱体化してしまう可能性がある。事業存続のために、ブランドはコミュニケーションをし続けなければならない。
大義からブランドを設計するブランドホロタイプ®・モデル
ブランドホロタイプ®・モデル※はクー・マーケティング・カンパニーの音部大輔氏によって考案された、パーセプションフロー®・モデル※の前提となるブランドの設計図だ。これを活用することで、企業はその社会的な大義を起点に、もっとも重要な経営資源であるブランドを厳密に設計することができる。このようなブランドの構造を示すモデルは数多く存在しているが、これほど包括的で、要素ごとの関係性を導き出せるモデルは決して多くはない。
ブランドホロタイプ®・モデルを正しく理解するために、その要素をひとつずつ説明する。
大義
ブランドのパーパスを示し、消費者にブランドの存在理由を伝える、ストーリーの源泉となるブロック。効果的なマーケティングにストーリーは欠かせない。大義は人の共感を生み出すブランドの根幹である。
機能・性能
製品やサービスの機能や性能はベネフィットの提供を可能にする。ブランドを競合から差別化し、消費者の問題解決を実現するマーケティングの礎石となる要素だ。
ベネフィット
ベネフィットは、機能・性能から得られる利得を消費者の視点から表したブランドコミュニケーションの軸である。消費者の欲求を満たし、ブランドがカテゴリー外の製品やサービスの競合関係を可能にすることで、市場を拡大させる。
ベネフィットの条件は、情緒的か否かということではなく、主語が消費者自身であること。製品やサービスが主語である場合は、ニーズが顕在化した消費者にしかアピールできず、市場の拡大やブランドの成長への貢献は見込めまない。
ターゲット消費者
ターゲット消費者のブロックは、ブランドの戦略を定める箇所。ターゲットは商品を買ってもらいたい人ではなく、投資対利益(ROI)が最も高い、つまりベネフィットに興味を持ち、広告に反応してくれる潜在顧客を示す。ブランドターゲットは、ニーズ発生やベネフィット享受の要因となる属性を持つ層。プロモーションターゲットは、そのなかでも比較的に獲得しやすく、もっとも競合に奪われてはならない層を指す。
市場・競合
市場は「競合との競争環境」であり、競合こそがブランド成長の収益源だ。ターゲット消費者同様、市場・競合を正しく定義することは戦略を決定づける。
ブランドはそれぞれ固有のベネフィットを示し、同じカテゴリーの商品が必ずしも消費者の心のなかで競合するとは限らない。本来は同じベネフィットを持つものがブランドの競合であり、それがまったく違うカテゴリーの製品やサービスである可能性は大いにある。現在、消費者が問題解決のために行っていることを理解すれば、正しい競合を定義することができる。また、同じ機能を提供するカテゴリー競合のなかでも、優先順位が存在する。戦いに勝つ方法を探すよりも、勝てる戦いを探すことのほうが賢明だ。
エクイティ
エクイティはコミュニケーションに活用できる、消費者の心のなかに築かれたブランドの「意味」である。レバレッジすべきエクイティが存在しなければ、そのブランドを使用する理由はない。エクイティは機能やベネフィットだけでなく、共感を生む大義の要素を含むことも可能だ。
このブロックには既存のエクイティだけでなく、求められるエクイティを書き示すこともできる。しかし、消費者の心に留められるブランドの意味は完全にコントロールできるものではないため、できる限りひとつの簡潔な定義に集約させるべきだ。
パーソナリティ
ブランドは、製品やサービスの機能を超えて、消費者と情緒的な関係を築く。その結果、機能や価格に左右されない競合優位性を築くことができる。しかし、人は無機質な存在と情緒的な関係を築くことはできない。クリエイティブを通じてブランドを擬人化し、人格を付与することにより、さまざまなタッチポイントにおけるコミュニケーションの一貫性を保ち、消費者との繋がりを創り出す。ブランドのパーソナリティを定義するポイントは、ターゲットがベネフィットを享受しやすく、受け入れやすい人物像を示すこと。目的は組織内のコンセンサスであるため、具体的な名称を使用することも可能だ。
アイコン
アイコンは消費者の条件反射を引き起こす合図。その合図を受けたときにブランドを想起し、ベネフィットやエクイティを感じるなどの、情緒的な反応を呼び起こすことが目的だ。必ずブランド固有のものであり、何らかの気づきを与えるものでなければならない。
いまこそ、ブランドをしっかり見直そう
マーケターはどんな逆境に直面しても、常に冷静で、着実に、そして戦略的に行動しなければならない。一部の人は、すでにパンデミック終息後のマーケティング計画を立てているかもしれない。しかし、先行きが見えない状況で、多くの人はまだそこに至っていないだろう。
時が経てば、いずれこの危機的な状況は過ぎ去り、物事は回復に向かう。しかし、これを乗り越えたあとの私たちの世界は、決して前と同じではないはずだ。いまこそ、ブランドのあるべき姿を見直し、社会とのつながりを設計し直そう。
※本記事はDIGIDAYに寄稿したコラムを転載しています。
※「ブランドホロタイプ®・モデル」は、Coup Marketing Company代表 音部大輔氏が考案したブランドマネジメントの実施の根底となるフレームワークです。引用の際は、上記クレジットの掲載をお願いします。
※「パーセプションフロー®・モデル」はCoup Marketing Company代表 音部大輔氏考案のマーケティングのマネジメントモデルです。引用の際は、上記クレジットの掲載をお願いします。