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定量的な分析に基づく論理的なデジタル戦略

荻野 英希 /

ブランドマーケティングのデジタル戦略はトレンドの影響を大きく受けます。社内評価のために先進性や面白さが重視され、クリエイティブコンペのようなものが用いられることも珍しくありません。エージェンシーも失注を避けるために、クライアント満足を優先した提案をしてしまうでしょう。結果、数値的な根拠の無いプランができあがり、マーケティング目的の達成はおろか、効果の検証すら満足にできなくなってしまうのです。

デジタル施策は運良く成功できるものではありません。ユーザーのセグメントやタッチポイントは細かく分断され、一人辺りにリーチするコストもテレビなどに比べ遥かに高額です。より高い精度のターゲティングが可能なため、必然的にマスの認知ではなく見込み顧客の購入意向を取りにいくことになります。これは、綿密なプランニングが必要であることと、少しでも戦略を見誤れば投資の回収ができなくなることを意味しています。デジタル施策からリターンを得るためには先進的なテクノロジーや、面白いアイディアではなく、定量的な分析に基づく論理的な戦略が必要となるのです。

今やデジタル戦略に必要なデータは比較的簡単に入手できます。以前はリサーチ会社に高額な調査を依頼する必要がありましたが、今ではセルフ型のインターネット調査サービスなどの普及により、低価格かつ迅速なデータ収集が可能になり、分析に時間と資金を使えるようになりました。もはやテレビに比べて予算の低いデジタル施策のプランニングにも、定量的な調査を省略する理由はありません。

セグメンテーション

データを収集する前に、まずはマーケットを分類する軸を定義します。最も基本的な分類方法は年齢や性別などのデモグラフィックです。他にも商品特性に対するプレファレンスや、購買行動などのビヘイビアが有効なセグメンテーション方法として考えられます。

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例えば、年齢や性別などによって商品の消費行動に差があるのであれば、デモグラフィックの分類によってその傾向を見ることができます。
また、国勢調査などの人口推計データ(http://www.stat.go.jp/data/jinsui/index.htm)や、他の属性データを掛け合わせることで、セグメント毎の人口も算出できます。

商品カテゴリーの中には様々な特性を持ったブランドが存在します。ユーザーが求める(または求めない)特性を軸とすることで、商品特性とプレファレンスがマッチするセグメントを特定できます。また、商品カテゴリーやブランドへの購買行動を軸とすれば、購買見込の高いセグメントを特定できます。

セグメント毎の代表的なプロフィールを作成するために、以下の属性を調べます。特にカテゴリー消費に関しては対象の商品だけでなく、併売商品や競合となりうる他カテゴリーについても調べましょう。

  • デモグラフィック(性別、年齢、居住地域、収入、職業、学歴、……)
  • カテゴリー消費(購入経験・頻度、購入ブランド、購入場所、購入方法、重視する特性、……)
  • 他カテゴリー消費(購入経験・頻度、購入ブランド、購入場所、購入方法、重視する特性、……)

次に、タッチポイントのプランニングを行うために、ユーザーが日常的にどのような状況で、どのようなデジタルメディアと接触しているかを調べます。ユーザーの日常生活が詳しくイメージできるよう、詳しく調べましょう。また、デジタルデバイスやデジタルメディアの利用については、そこからメディアプランが立てられるよう、具体的なサイトやサービス名を挙げ、いつ、どれくらい接触しているのかを調べます。さらに、Eコマースでの購入カテゴリーや、有料アプリ、コンテンツのサブスクリプションサービスなど、オンラインでどのような消費行動を行っているかを調べます。

  • ライフスタイル(起床、食事、通勤・通学、就業・就学、家事、食料品・日用品の購入、自由時間、就寝、……)
  • デジタルデバイス(利用、利用目的、利用時間・時間帯、……)
  • デジタルメディア(利用、利用目的、利用時間・時間帯、……)
  • オンライン消費(EC、アプリ、ゲーム、コンテンツ、……)

最後に、数値目標を立てるために購買ファネルの段階毎のユーザーの出現率を調べます。少なくとも認知、購入意向、購入経験のデータはとりましょう。細かく見るのであれば以下のような段階も考えられます。また、購入意向~推奨の段階でネガティブな回答を得た場合、その理由をフリーアンサーで収集します。これらの理由を鵜呑みにする必要はありませんが、カテゴリー消費の重視する特性などと比較することで何か発見があるかもしれません。また、自社のブランドだけでなく、競合ブランドに関するデータを取得することで、より詳細な戦略が見えてきます。

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プロフィール

デモグラフィック、プレファレンス、ビヘイビアの各セグメントごとのデータを集計し、代表的な人物像のプロフィールを作成します。プロフィール毎のデモグラフィック、カテゴリー消費、日常生活、デジタルデバイス、デジタルメディアの利用状況に加え、セグメントの人口を推計します。

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KPI

ターゲットとなるセグメントの人口、マーケティング予算、商品の粗利益や月刊購入数などから、達成すべき量的指標、価値指標などのKPIを算出します。必要となるデータや計算方法については前回の記事(https://www.ficc.jp/blog/web-campaign-kpi-based-on-budget-and-goal/)を参照してください。この計算からは、マーケティング投資からリターンを得るために十分なセグメントの規模があるか、一人辺りの購入意向を獲得するために掛けられる費用はいくらかということがわかります。

ターゲティング

セグメント毎の収益性の見込みや、ブランドとのフィット、目標の実現性などを評価し、新たにターゲットとなるセグメントを定義します。年齢や性別などのデモグラフィックだけであれば問題はありませんが、その他の属性をセグメントの軸とする場合は、広告のターゲティング手法をあらかじめ考慮しておきましょう。ターゲットとして設定したセグメントのデータの集計と分析を再度行い、新しくプロフィールを作成します。

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ポジショニング

これまでの分析から、ターゲットの消費行動や商品カテゴリーに求める特性、その優先順位などがわかります。ターゲットの購入意向を獲得するために効果的と思われる複数リストアップし、コミュニケーションの開発を行います。

タッチポイント

ターゲットとの接触が見込めるデジタルメディアも割り出せています。さらに、出現率から量的指標の達成見込み、メディアの特性から価値指標の達成見込みを考慮し、選定を行います。より低コストで、より多くのターゲットの購入意向を獲得できる順にメディアを選定していきます。

この分析を通じて、マーケティング目的を達成するためのKPI、収益見込みの高いターゲット、効果的なコミュニケーションの訴求軸、効率的に接触できるタッチポイントを割り出すことができます。そこに自社の強みや、独自性の高い資源などを掛け合わせれば論理的なデジタル戦略ができあがります。実際にデジタル施策を実施した際にも、希望通りの効果があったかを計測することができるため、仮説の細かい検証や軌道修正などが可能になります。トレンドやアイディアではなく、定量的な分析を起点とすることで、デジタル戦略から確実なリターンを得られるようになるでしょう。

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