FICC ナレッジブログ

グラフィックデザイナーに学ぶ、表現の幅を広げるためのヒント

杉本 萌子 /

デザイナーとして日々の制作に向き合っていると、自分のデザインにマンネリを感じることはありませんか。クライアントや商品が変わっても同じあしらいをよく使っていたり、アクセントの付け方が似ていたり。もちろん自分の中で定番のデザインがあることは、効率的でもあり、デザインの個性とも言えます。しかし、そのマンネリを抱えたままで良いのでしょうか。

そこで今回は、Webの領域から少し視野を広げて、ビジュアルコミュニケーションの源泉とも言えるグラフィックデザインから、表現の幅を広げるためのヒントを探ります。

現在フリーランスで活躍されているアートディレクター/グラフィックデザイナーの横山 徳(よこやま のり)氏をFICCにお呼びし、勉強会を開催しました。普段どのような考え方でデザインを制作し、またどのようにその表現力を身につけているのか。Web制作にも活かせそうなヒントを伺いました。

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お互いの実績を紹介し合い、気になったポイントを質問しながら進行しました。

”◯◯っぽい” を大切にする

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スウェーデン大使館で行われたイベント告知のロゴ、招待状、パンフレット。招待状の文字部分にはホログラム加工がされており、紙にはロゴの色を取り入れた8枚の合紙が使われている。

Q.このロゴは何をイメージして作られたんですか?

— 横山氏 「一言で言うと、オーロラっぽいロゴにしようと思いました。誰もがスウェーデンと聞いて思いつく3番目くらいまでのイメージに、オーロラがあると思います。アウトドアというトピックを扱うイベントだったことや、北欧の持つ柔らかい国民性やデザインと、この有機的なフォルムは相性がいいと思ったんです。」

この「オーロラっぽいロゴ」とあるように「◯◯っぽい」というフレーズは、横山氏の説明の中で頻繁に登場し、柔軟な表現のために欠かせない感覚であるという事が見えてきます。

例えば、書体を選ぶ時でも、一般的な使用例や固定概念に縛られて、つい「こういう条件で選ばなければいけないのでは…」と硬く考えがちですが、「この書体は◯◯っぽい」というシンプルな直感を大切にし、一度発想を解放し自由に考えてみましょう。そうすることで、表現の幅が広がる可能性があります。発想のきっかけは、たとえどんなに単純で些細なものでも良いのです。

また「◯◯っぽい」という感覚のバリエーションを増やすには、普段から物事を観察することが大切です。物事をよく観察し、出来るだけたくさんの特徴を見出すことで、特徴のストックが記憶の中に蓄積されます。特徴のストックが多ければ多いほど「◯◯っぽい」という感覚が養われ、バリエーションも増えていくはずです。

<大衆的な視点も意識する>
自身のオリジナリティを大切にする一方で、大衆的な視点も意識することが必要です。「これを見たらほとんどの人はこう感じるはず」といった大衆的な視点も持ちあわせることで、多くの人に受け入れられながらオリジナリティの光るデザインになるでしょう。横山氏はこの相対する2極のバランスを、案件の特性によって変えていて、それを検討する事にかなり時間を使うそうです。

デザインのアイディアを100案出してみる

Q. デザインのアイディアはどのように出していますか?

— 横山氏 「まずはアイディアを出す前に、案件の根本にあるものを掘り下げます。掘って掘って、掘った先にある、その案件が生じた根本的な原因を見つける。そしてその原因を解決するためのコンセプトを考えます(既にある場合は照らし合わせます)。割合的には手を動かす時間は3割くらいで、考える時間の方が圧倒的に多いです。

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そこからコンセプトに沿ってキーワードを出していきます。キーワードから連想されるイメージを考えつく限りラフで描き起こし、描いたラフから別のイメージが生まれれば、またそれを描いていきます。

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平均で100案近く作ってみて、それらを地道に検証する方法が多いですね。文字との組み合わせを検証したり、徐々に細部の検証へと移っていきます。」

大事なのは、すぐに形に起こす作業に入るのではなく、アイディアの元となるコンセプトを固め消化し切ることが重要です。このプロセスを経て出されたラフのアイディアは、コンセプトの核心を突きブレの少ないものとなるはずです。そしてアイディアを大量に出してみて、それらのアイディアの中から精選していくことで、より精度の高い表現へと仕上げることができるでしょう。100案というのはひとつの指標として捉え、とにかく一度アイディアを出し尽くしてみましょう。

<アイディア出しの環境を変えてみる>
横山氏はその都度、アイディアを出すのに最適な環境を作って、インプットしやすい状態に身を置いてるとのこと。BGMや場所を変えてみたり、そのアイディアに近しい印象の環境に身を置いてみたり、または逆のイメージの環境で考えてみるそうです。

デザインから離れる時間を作る

Q. 制作が行き詰ったことはありますか?その時はどんなことをしますか?

— 横山氏 「全然あります(笑)そんな時は思い切って一旦手を止めて、一切何もしません。もしくは気分転換に映画や動画を見たりします。時間を置いてからまたそのデザインを見ると、良くなかった部分が見えたりしますね。がむしゃらに制作を進めていた頃に比べて、今は良くも悪くも制作をスムーズに進めれるようになった。それでも一旦デザインから離れる時間を作って、多面的にコンセプトや表現について、俯瞰しながら考え直す時間を作るようにしています。」

時間に余裕があれば、数日間そのデザインを見ずに別の作業をしましょう。時間がなければ、制作順序を工夫したり、画面を遠くから見てみるだけでも違います。いかに自身のデザインを客観的に見れるかが重要です。

毎日、少しずつ表現のトレーニングをする

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1日1案、グラフィック作品を制作し、365日分を納めた3冊の本。一枚一枚全て違う種類の紙を選び、印刷技法にもこだわっている。デザイン表現への挑戦が随所に感じられる。

この本を作ろうと思ったきっかけは何ですか?

— 横山氏 「表現のリサーチをしていると、挑戦してみたい技術や表現方法がたくさん出てくる。でも、挑戦してみたいからといってそれをクライアントワークにはめるのはただのエゴになってしまう。とはいえ、実践したい気持ちや表現は溜まっていく一方で…。

そこでライフワークとして一度アウトプットしようと思って作り始めたのがきっかけです。見るだけじゃなく体現したほうが身になりますし。スクラップブックの延長のようなものですね。

そんなきっかけで始めましたが、あとに引けなくなって気付けば毎日作るようになりました。作品数もたまってきたので、ファイリングしようと思ったんですが、せっかくなら全部違う紙を選んで製本までしちゃおうかなと。そんな風に作りながらイメージが膨らんで完成しました。今でもこの時のトライアルがかなり役に立っていているので、やって良かったと思っています。」

こうした日々のトレーニングは、表現の幅を広がることはもちろん、デザインの瞬発力も上がります。もしあなたが限られた時間の中で、より高いパフォーマンスを発揮したいと思っているのであれば、日常的にアウトプットする時間を10分だけでも作り、いつでも表現のアイディアを出せるよう瞬発力を養いましょう。

しかし、いきなりそういったアウトプットに落とし込めないという人もいるかと思います。そんな時はアウトプットの一段階手前のトレーニングとして、日常的に自分の好きなデザインを分析する癖をつけると良いでしょう。例えば、ふと目に止まったデザインがあったとして、そのデザインはなぜあなたの目を止めさせたのか、そのデザインの構成や要素を分析していくと、必ず理由があるはずです。その理由を発見できれば、自分でアウトプットするための手がかりとなるはずです。

まとめ

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ビジュアルコミュニケーションの源泉とも言えるグラフィックデザインの考え方は、様々な分野のクリエイティブにおいても共通項が多く、応用できる事が多いと言えます。

— 横山氏 「これまで様々な分野に挑戦していますが、全てのクリエイティブに共通する部分は必ずあって、それはとても単純なものであると思います。伝えたいこととそれを伝える方法を探り、それに対して最適なコミュニケーション方法を創る。グラフィックデザインは、どんなコミュニケーションであっても常に重要な役割があり、そこで培ってきた軸は、活動する場が広まっても非常に太いと感じています。」

グラフィックデザイナーでもWebデザイナーでも、領域は違えど、デザインをする上での共通項は多く、新鮮で有益なヒントがたくさんあります。Webデザインの新たな表現を考える上で、グラフィックデザインの領域に目を向けてみるのも有効な手段ではないでしょうか。


横山 徳(よこやま のり)
http://noriyokoyama.com/

2007年 多摩美術大学美術学部グラフィックデザイン学科卒業。デザイン制作会社勤務後、2010年フリーランスへ転身。アートディレクション・グラフィックデザイン・イラストレーションを軸にWeb・映像・空間等多岐にわたり活動。

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