デジタルマーケティング施策で、ユーザーの行動を変化させるためのコミュニケーション設計をするためにはインサイトを理解しておく必要があります。しかし、インサイトを調査する方法がわからず、悩んでいる方も多いのではないでしょうか。正確なインサイトをつかむには時間と労力がかかりますが、コミュニケーションを設計する上でヒントとなる程度のインサイトであれば、ソーシャルメディアやレビューを利用し、比較的簡単に調査することができます。
例えば、Twitterなどのソーシャルメディアやレビューではユーザーが利害に関係なく商品に対する率直な意見を投稿しています。「新しく発売されたアイス買ってみたけど思ってたより美味しかったー!」「前から気になってたアイス見つけたんだけどちょっと値段高いよね…。」このような投稿からはユーザーの本音を垣間見ることができるため、インサイトの傾向をつかむことができます。
もちろん上記のような投稿から100%正しいインサイトをつかめるわけではありません。グループインタビューやアンケートなどを併用する必要が発生する場合もあります。しかしコミュニケーション設計を行う上では、十分利用することができるインサイトを発見することが可能です。
インサイトリサーチの3ステップ
まずリサーチを行う前にインサイトの意味を正確に把握しておきましょう。インサイトとはターゲットの「思考」と「購買行動」の因果関係と定義することができます。それではインサイトリサーチの具体的なプロセスをみていきます。インサイトリサーチは購買動機を左右するポイントを洗い出す検索、インサイトの発見、競合商品やカテゴリーとの比較の3ステップに分けることができます。
具体的な流れを見ていくため、今回は実際のブランドで簡単なインサイトリサーチを行ってみます。私はアイスが好きなので2012年、日本に再参入したアイスクリームブランドのBen & Jerry’sをクライアントに、全国のコンビニでカップアイスを販売すると仮定し、競合になると思われるハーゲンダッツのユーザーからブランドスイッチしてもらえるコミュニケーション設計を目指してインサイトを構築していこうと思います。
ステップ1 : ネット上から購買動機に関する口コミを洗い出す
インサイトを発見するため最初に行うステップは、ネット上から競合商品と商品カテゴリ、クライアント商品の購買動機に関する口コミを洗い出すことです。口コミを探す先はソーシャルメディアやECサイト、CGMサイト、ブログなどです。洗い出した口コミには簡単なタグを付け、Excelなどで分類していきます。
口コミは購買を軸に、ポジティブなものとネガティブなものに分けて洗い出します。根気のいる作業ですが、100程度の口コミを集めるのが理想です。以下のような口コミに注意して見ていきましょう。
- Ben & Jerry’sのアイス美味しいから食べたくなっちゃうんだよねー
- 今日仕事頑張ったからご褒美にハーゲンダッツ買ってきちゃった!
- ハーゲンダッツ大好きなんだけどちょっと高いから今日は我慢しよう。
このような口コミからは「美味しくてBen & Jerry’sを買う」「自分へのご褒美にハーゲンダッツを買う」「ハーゲンダッツの値段が高いから買わない」といったことが判断できます。
実際にハーゲンダッツのリサーチを行ったところ上記のようになりました。ポジティブな口コミが圧倒的に多く、その中ではプレゼントや自分へのご褒美で購入している人が多いことがわかりました。また、期間限定のフレーバーを試して、美味しいと投稿している人も目立ちました。
数少ないネガティブな口コミの中で目立ったのは値段が高いということでした。プレミアムアイスということで仕方のない部分もありますが、高いと感じてしまう人もいるようです。今回は省略しますが、同様に商品カテゴリとBen & Jerry’sの購買動機もリサーチします。
ステップ2 : ステップ1で洗い出した口コミを基にインサイトを発見する
ステップ2ではステップ1で洗い出した購買動機を基に競合商品、商品カテゴリ、クライアント商品のインサイトを探していきます。ステップ1の内容によっては商品と一緒に購入する併売商品(今回の場合はアイスと一緒に購入する飲み物など)のインサイトも発見できる可能性があります。
- 〇〇だと思っているから〇〇を買っている
- 〇〇したいから〇〇を買っている
- 〇〇になりたいから〇〇を買っている
インサイトは上記のような文章を参考にすると発見しやすいです。
ステップ3 : より正確なインサイトにするため、競合や商品カテゴリとインサイトを比較する
ステップ2で発見したインサイトをより正確にするため、上記のフレームワークに当てはめ、競合商品や商品カテゴリ、併売商品とクライアント商品で比較します。比較する上で最も重要になる点は競合商品や商品カテゴリを買っている人の評価属性を変えることができるインサイトをつかむことです。少し言葉で表現するのは難しいので実際の例を見ていきましょう。
今回はハーゲンダッツのインサイトからBen & Jerry’sのインサイトへ評価属性を変えることができる点に着目して比較していきます。
ハーゲンダッツのインサイト 「いつも買っていて失敗したことはないし、美味しいのはわかっているからハーゲンダッツを買っている」
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Ben & Jerry’sのインサイト 「みんなが美味しいと言っているからBen & Jerry’sを買ってみる」
ハーゲンダッツのユーザーは何度もリピート購入していることが多いです。それは「過去の自分の経験でアイスを選ぶ」からで、失敗することがない美味しいアイスだとわかっているからです。他のアイスを手に取る事が少ない人に「過去の自分の経験でアイスを選ぶ」から「他の人の経験でアイスを選ぶ」という評価属性を与えてあげることができれば、Ben & Jerry’sのアイスを手に取ってもらうことができます。
ハーゲンダッツのインサイト 「より質が高いと思うからハーゲンダッツを買っている」
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Ben & Jerry’sのインサイト 「フェアトレードで質にこだわっているからBen & Jerry’sを買っている」
コンビニで並んでいるプレミアムアイスの中でもユーザーはハーゲンダッツが他のものより質が高いと感じています。ユーザーは「アイスクリームは質で選ぶ」からハーゲンダッツを選択しています。そこでBen & Jerry’sの特徴であるフェアトレード認証された材料を使い、質にこだわっていることを具体的に伝えることができれば選んでもらえることができます。
ハーゲンダッツのインサイト 「期間限定で新しいし、パッケージのデザインから美味しい味が想像できるからハーゲンダッツを買っている」
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Ben & Jerry’sのインサイト 「フレーバーが美味しそうで誰もが安心できる原料を使っているからBen & Jerry’sを買っている」
ハーゲンダッツのパッケージは見るだけで味が想像できる素晴らしいデザインです。期間限定の新しいフレーバーで、食べたことがなくてもパッケージから味が伝わってきます。ユーザーは「アイスクリームはイメージで選ぶ」のでハーゲンダッツを選択しています。Ben & Jerry’sはフレーバーが美味しそうで、誰もが安心できる原料を使っている事を伝えることができれば、イメージでBen & Jerry’sを選んでもらうことができます。
ハーゲンダッツのインサイト 「知人や家族が好きで喜ぶことを知っているからハーゲンダッツを買っている」
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Ben & Jerry’sのインサイト 「あの人が選ぶフレーバーが必ずあるからBen & Jerry’sを買っている」
ハーゲンダッツを知人や家族にプレゼントとすると喜ばれます。「アイスクリームは人の好みで選ぶ」からです。ハーゲンダッツブランドをプレゼントするのではなく、知人や家族が選ぶ味のフレーバーがあることを伝えることで、家族にもっと喜んでもらえることを知ってもらえれば、Ben & Jerry’sを選んでもらうことができます。
ステップ2の段階でもある程度インサイトの傾向は見えています。そこに評価属性という視点を持ち、競合商品や商品カテゴリとクライアント商品でインサイトを比較することで、より正確なものにすることができます。
インサイトを正確にする上で重要になる評価属性ですが、注意点もあります。今回のインサイトでも2番目や3番目は評価属性を変えているものの、類似点があります。このように競合と似ているインサイトでコミュニケーションを取る場合、認知度が高いブランドには勝つことができない可能性があります。インサイトをつかむ上では、競合にはない優位性や独自性の部分をいかに多く見つけることができるかが重要になります。
ここまでがインサイトを発見するための3ステップになります。今回のインサイトリサーチはブログ用として短時間で行ったものですが、コミュニケーション設計を行う上でのヒントとなるインサイトはつかむことができたと思います。
各ステップで更に時間をかけることや、ステップ3で比較対象を増やすことによって正確度は増していきます。インサイトリサーチを利用してインサイトを発見するためには経験も必要になってきますが、繰り返し行うことで誰でもインサイトを発見することが可能だと私は思っています。
インサイトからターゲット像を明確にする
ここまでインサイトリサーチのプロセスをご紹介しましたが、リサーチで得られたインサイトを基に、もうワンステップ進ませてターゲット像を明確にさせることができます。明確にさせることによってプロジェクトに関わるチーム内で同じターゲット像を描くことに繋がり、コミュニケーション設計を行う上では重要な要素となります。
ターゲット像を描くためにはI am statementという方法を使用します。I am Statementとは一人称の視点からターゲットの心理を描いた文章のことです。このI am statementはステップ3で得られた複数のインサイトや、リサーチをする過程で見つかったユーザーの特徴などから作ることができます。今回はハーゲンダッツのユーザーがターゲットということで、インサイトリサーチの結果から簡単なI am Statementを作成してみました。
私はスイーツとか甘いものが好き。コンビニとかスーパーで甘いものを見たらすぐ食べたくなっちゃいます。最近、会社では責任のある重要な仕事を任されることも多くなってちょっと疲れ気味。癒しが欲しい時とか仕事を頑張った時は帰りにコンビニでハーゲンダッツを買ってます。
プレミアムアイスが売ってるコーナーにいくと色々なアイスがあるけど私はいつもハーゲンダッツかな。ハーゲンダッツはどんな味を買っても美味しいし、他のアイスよりも質がいいと思ってるから。わざわざ他のアイスに挑戦して失敗するのも嫌だし…。
今日は期間限定で新しいフレーバーが出てたから、思わず買っちゃった。だってパッケージに書かれてるアイスのイメージがすごい美味しそうだったんだもん。今日はなんだか機嫌がいいし、家族の分も買っちゃおうかな。ハーゲンダッツを買っていくとみんな喜ぶんだよね。
いかがでしょうか。これまでに出てきた複数のインサイトに加えて、ユーザーの特徴などを少し組み合わせてあげることで、このようなI am Statementを作成することができました。さらに詳細なターゲット像を導き出したい場合はペルソナリサーチという方法もあります。インサイトに加えて上記のようなターゲット像を明確にすることで、よりコミュニケーション設計に役立てることができるようになります。
インサイトはコミュニケーション設計を行う上で欠かすことのできないものです。インサイトリサーチの過程はインサイトを発見するだけではなく、I am Statementのようなターゲット像の作成、他にもコミュニケーション設計を行う様々な場面の土台となります。ある程度の時間と経験は必要となりますが、誰でもネットに繋がる環境さえあれば、どこでもリサーチすることが可能です。リサーチの過程は財産となることばかりですので、インサイト調査する際はぜひ一度試してみてください。