社会問題への取り組みを顧客との関係強化のために適切に活用できているブランドはどれほどあるのでしょうか。本連載ではFICCが独自に研究した「顧客関係強化の触媒としての社会問題」というテーマを全6回の記事にて読み解いていきます。ブランドが向き合うべき社会問題とはどういったものなのか、なぜ必要なのか、どう取り扱えばいいのか。そのような課題を解決するためのヒントが得られる内容となっております。
※注:2020年9月に知識向上を目的として作成した社内報を、社外の皆さまにもお役立て頂けるよう連載記事として公開しています。
第5回目となる本記事では、それぞれ異なる実行手段を取っている3つの事例を紐解き、どのように自分たちの顧客が抱える問題を解決し、何が重要なのかを考察します。 日本国内において、CPGカテゴリにおける既存ブランドが、CSR的な文脈ではなく顧客に対する価値創造の一環として、社会問題の要素を含んで行った事例はまだまだ数少ない状況にあります。 その中でも、いくつかの事例を今回の“3つの「2」”に基づき分析した時、日本という文脈の中でブランドの社会性を発揮しつつ、しっかりと経済的リターンが見込めるアプローチのKey Success Factorが見えてくるはずです。 今回は、それぞれ異なる実行手段を取っている3つの事例をピックアップし、独自に考察しました。 顧客が抱える「障害はなにか?」という問題提起が社会問題へつながる 会社の社員が「アンバサダー」としてネスカフェバリスタを社内に設置し社内での使用を促進する役割を担っています。現在40万人以上が登録。 東日本大震災でバリスタ提供をした際に、バリスタが起点となってコミュニケーションが活発になったことと、コーヒーの飲用機会が家から会社・外で増加している傾向にあった当時の市場状況に切り込みたいという状況もあり、アンバサダー・プログラムが推進されていきました。 ブランド価値 ターゲットが抱える障害 社会価値と経済価値の交換関係を築くシナリオを描いた事例 ブランド価値 ターゲットが抱える障害 共感性の高い問題提起によって、啓蒙が成功したコミュニケーション事例 ブランド価値 ターゲットが抱える障害 次回、「【第6回】自分たちのブランドを今よりもお客様にとって価値あるものにするために」では、日本の社会背景・ブランドマーケティングの根幹たる価値の交換・3つのケーススタディを通じて、私たちが改めて認識すべきことについて考察していきます。
【第1回】ブランドと顧客の関係における「社会問題」が果たす役割とは?
【第2回】日本社会において社会問題を「顧客視点」で捉えるメリットとは
【第3回】「顧客視点」の実行にあたり必要な3つの”2″とは
【第4回】「2つの障害の特性」と「2つの価値のシナリオ」とは
【第6回】自分たちのブランドを今よりもお客様にとって価値あるものにするために
日本国内における事例から洞察する成功要因
CASE1 : ネスカフェアンバサダー
バリスタの使用は無料で、トナーだけが従量課金されていくサブスクリプションモデルを採用しています。
ネスレはコーポレートサイトにおいて、CSVの3つの基本方針として「個人と家族のため」「コミュニティのため」「地球のため」を掲げています。
その中でも「個人と家族のため」では、健康や栄養といった要素が含まれており、ここで言う健康はwell-being、すなわち「心の健康」についても取り組むべきものとして解釈されています。
日本は物質的には豊かな国ですが、その幸福度は先進国の中でも際立って低く、「心の健康」は生活をより豊かにしたいと掲げるブランドにとって重要な価値創造の機会となります。
精神的健康が大きく影響する職場において、コミュニケーション機会が不足することはストレスを増大させます。
しかし、オフィスでは、メールでのやり取りが増えたり、喫煙スペースもなくなり、働く場でのコミュニケーションは希薄になっています。
多くの時間を費やす「会社」でこそ心身共に健康であることは、人生を豊かにしていく上でとても重要です。しかしながら、実際には多くの人が人間関係などに悩み体調を崩すに至ることが多い状況にあります。CASE2 : なないろ保育園
セブンイレブンは、加盟店の従業員・オーナー・地域住民が利用できる保育園を開園。待機児童数が多い地域を対象に、店舗2階等に併設する形で運営(東京大田区、広島の2店舗)をスタート。
子育て世代の女性たちに対し、働きやすい環境を整備し、働く女性の就労継続・多様な人材の活躍へ貢献しました。
加えて、地域とのエンゲージメント向上による顧客LTV向上(及びSNSでの支持表明)、FC加盟店のやりがい向上、地主との交渉円滑化にも貢献する結果となりました。
セブンイレブンのミッションである「地域社会への利便性の追求と豊かな暮らしの提供」から、MTである地域住民に対してもサービスを提供を行うことを決定しました。待機児童数が多い地域の住民に対しサービスを提供した結果、共感性の高い施策となり、ブランディングに寄与しました。
セブンイレブンが取り組む意味・意義としても理解できるものとなっています。
男女平等推進による共働き世帯増加の一方、保育士不足・少子化による自治体の保育園の投資消極化等により、待機児童問題が増加。
歴史的背景から女性が育児を担う日本では、働きたくても子が保育園に入れず、女性の継続就労が難しいという状態が起き、社会課題化しています。セブンイレブンにおいても、店の主力として働いていたベテラン層に子育て世代の女性たちが多く、同様の問題が起きていました。CASE3 : #HairWeGo
パンテーンは「髪の質や色は人によって違っていい。自分の好きな髪型で楽しんでいこう」そんなポジティブな発信をしたいと思い、「さあ、いくぞ」という意味の「Here we go」をもじった「#HairWeGo さあ、この髪でいこう。」というキャンペーンを行なっています。
このキャンペーンでは、髪にまつわる固定観念や社会課題に対し、問題提起を行うことで社会を前向きに変えるきっかけをつくっています。
代表例 #️この髪どうしてダメですか #令和の就活ヘアをもっと自由に #令和の就活ヘアをもっと自由にキャンペーン”では139社も巻き込み、動画1000万再生、UGCも生まれました。多数の企業にも影響を与えることができました。ブランドコミュニケーションとして社会課題を動かした成功事例といえます。
#HairWeGoを通し「なりたい髪を叶えることによって一歩前に踏み出す勇気を与えていきたい」というブランドの在り方をコミュニケーションを上手く使い、啓蒙を行なっています。
啓蒙する課題がどれも共感性の高い課題なため、SNS上で議論が発生します。この議論に影響され、国・企業が結果的に動くことで、社会が前向きになる変化を起こしています。
学生時代に多くの人が経験する”黒髪を強制する校則/古典的慣習” ”新卒一括採用の就活時の身なりに関する日本の古典的慣習” このどれもが自己表現、自分らしさを抑圧している日本にある共通性の高い障害です。
ブランドと顧客の関係を強化する戦略立案をサポートしています
FICCのメディア・プロモーション事業では、社会問題を媒介としてブランドと顧客の関係を強化する戦略立案からプロモーション立案・実行まで一貫してサポートしております。サービスの特徴や事例について詳しく知りたい方は下記リンク先ページをご覧ください。