14年間ずっと売上No.1の日やけ止め、資生堂 ANESSA(アネッサ)。そして昨年2016年は、ANESSAがはじめてスポーツ市場へ参入した年でした。ただ海へいく女性をターゲットにするのではなく、屋外でスポーツをする女性やアウトドアが好きな女性などをターゲットに展開、そのプロモーションは非常に戦略性が必要なプロジェクトでもありました。
そのデジタルプロモーションを担当したのが、FICCの加田木智也(写真中央/プロデューサー)、石川アンケル(写真左/プロデューサー)、豊嶋七瀬(写真右/ディレクター)らメンバー。今回は、資生堂 ANESSAプロジェクトを通じてどんな「価値提供」を行ってきたのか、3人にインタビューしました。
「クリエイティブはコストではない」数字でトラッキングする文化が重要
今回、資生堂 ANESSAが新しく開発したのが、「アクアブースター技術」。汗や水に触れると紫外線をブロックする膜が強くなるのが特徴です。
そのため、2016年のANESSAマーケティングプランにてメインターゲットとして設定されたのは、「レジャーやスポーツを楽しみながら、美しさを保ちたい女性」。そのターゲットに向けて、テレビCMや店頭プロモーション、さらにスポーツブランドとのコラボや協賛、デジタルプロモーションなど、多方面に渡るブランド戦略が立てられました。
そのなかでFICCが担当したのが、PRおよびデジタルプロモーションの領域。2016年2月から2017年2月までの1年間を4つのフェーズに分け、認知獲得から購買促進のための施策を実施。
メディアプランニングや態度変容調査、KPI設定などを加田木が担当、コンテンツ開発やブランドサイト等のディレクションおよび制作を豊嶋が担当、Facebookコンテンツや@cosmeの企画やディレクション、そしてネイティブアドを石川が担当しました。
“ほぼ初めてに近い” というANESSAのデジタル領域での戦略的プロモーションに対して、彼ら3人が意識していたのは「数字でトラッキングする文化」でした。
加田木:ANESSAがデジタル領域でプロモーションするというのは、はじめてに近い試みだったんですよね。
なので、デジタルへの投資に対してどれだけ効果があったのかを見えるようにしないといけないなと考えていて。単純にメディア出稿してどれだけクリックがあって、CPCいくらで何万人を送客できました、だとなんも意味がない。
出稿して送客するのは当たり前で、さらにそこからメディアに接触した人、接触しなかった人の購買の態度変容にどれだけ影響を与えられたかを調査して、数字で見せるというのが大事だと思っていました。
その結果、ANESSAというブランドのなかに「数字でトラッキングするという文化」を残せたのは、僕にとって価値提供ができたのかなと思います。
石川アンケル(以下、石川):数字で見せるのって緊張しますよね。良い数字が出なかったらどうしよう、とドキドキする。結果、良い数字が出たのでよかったのですが、たとえ悪い数字でもそれをもとに改善できるんですよね。
なので、悪い数字=悪い結果ではないわけです。わたしたちは悪い数字というのを「学び」としてとらえていて、なぜこうなったのかを分析し次に繋げるというのが大切だなと。
豊嶋:あと、「クリエイティブはコストじゃない」と思ってもらうことが命題だったなと思っていて。つくって終わりではなく、常にトラッキングし続けて、つくったものが効果あるものなのかどうかをレビューしていかなければいけないし、データをもとに次へ次へと進んで、フィードバックして改善していくことに意味があるんですね。
そして、ストラテジーができる会社はたくさんあるけども、最終的にクリエイティブまでも納品できる会社というのがFICCの強み。クライアントから「パートナー」として頼られる存在にいたいなと思いますし、そこがわたしたちが提供できる価値なのかなって思います。
加田木:「クリエイティブはコストじゃない」という考えをもつことって、対クライアントだけでなく、対社内に対しても重要で。数字でトラッキングすることで、クリエイターは自分のつくったものが良かったのか、悪かったのかを把握できるんですよね。その数字をもとに、次はこうしよう、ああしようと成長する糧にもなりますしね。
ブランドのパートナーとして働くからこそ、その仕事は思い出になる
「アクアブースター機能」の認知および理解を促進するためには、適切なターゲットに適切な情報を届けるための細かいメディア戦略が求められます。さらに14年間もの間、売上No.1であるANESSAのブランド価値を崩さない戦略も必要。
このANESSAのプロモーション戦略において求められたのは、「ユーザーインサイト」と「資生堂らしさ」の理解でした。
加田木:ユーザーとのタッチポイントごとに、ユーザーインサイトを満たす最適なコミュニケーション設計をしなければなりません。そこで今回のターゲットである「レジャーやスポーツを楽しみながら、美しさを保ちたい女性」の気持ちを考えるのが大変でしたね。
ランニングをしている女性だとしたら、なぜランニングをしているのか。きっとダイエットのためだったり、健康のためだったりするかもしれない。そういったことを一つひとつリサーチし、実際ターゲットとなるような方にお話を聞いたりして調査を進めていました。
豊嶋:施策全体を通しても、またブランドサイトでも、ANESSAとスポーツやレジャーをアソシエイションする見せ方を大切にして制作しました。
ただ、ANESSAは日やけ止め市場で14年間、売上No.1というこれまでに培ってきたイメージもあります。そのためブランドサイトに求められるのはスポーツアソシエイションの要素に加え、王道らしさや強さ、そして資生堂らしさ。ブランドサイトの中で資生堂が打ち出したコピーやビジュアルがどのようにユーザーに伝わるべきかというのは、常に議論し続けてました。
石川:資生堂を理解していないと、制作はできないわけですよ。そして、クライアントから指摘される前に、「ここは絶対指摘されるから、変えよう」といった社内コミュニケーションを重ね、なるべくクライアントの負担を減らすよう動いていましたね。
だから、ブランドのために働いているのではなく、ブランドの「横」で、それこそクライアントにとってパートナーと信頼していただけるよう案件を進めていて。
石川:嬉しかったのは、ブランドの担当者の方から「メールで正式にご連絡がいく前に伝えたくて…」と御礼の電話をいただいたんですね。ふだんはメールなどでやり取りしていて、電話で話すこともなかった方だったので、より一層嬉しくなちゃって。クライアントとパートナー関係を築けたと感じた瞬間でした。Facebook申請をいただけたりもして(笑)。
大変だったことももちろんあったけど、「いい大変さ」というか、やってよかったなと幸せに思えますよね。
加田木:このANESSA案件のチームメンバーが、みんなポジティブだったのもすごいよかったです。大変なことはたくさんあったんです、だけど今となっては楽しかった思い出。メンバー同士で一度も喧嘩したこともないですし、いつも仲良くできていたなと思います。
豊嶋:お互いの意見を尊重し合うチームなんですよね。複数施策が走る中で、スケジュールがきつくなることもあったのですが、チーム全体がそういったことにも柔軟に対応していたと思います。本来的には最初に引いたスケジュールをキープしながら進めていく、というのは最終的にクオリティに繋がる部分です。なので、気軽にスケジュール調整しましょうというのはできないのですが、スケジュールを調整すればよりクオリティがあげられたり、より施策にコミットできるならきるだけ柔軟に対応していこう、という体制だったのもよかったなと思います。
石川:あとNOなことはNOって言いますよ、だけどその代わりとなるアイデアは必ず提案する。ただ否定するということはないですよね。
ゴールを見失わないこと ― 目的思考を持った組織は強い
加田木:僕はあとゴールを見失わないようにする、というのを意識していて。スケジュールについても、「それはどうしてもスケジュールを変更しなくちゃいけないことなのか」と考えなくてはいけないですよね。スケジュールを変えてまで新しくデザインをし直さなくちゃいけないのか、それは施策の効果を上げるために本当に必要なのか。もし新しくやろうと判断したら各所に調整して進めていく、というゴールに対してどう動くべきかを考えています。
FICCのメンバーはみんなゴールを意識して仕事しているので、すごいやりやすい。感情的にならずに話し合いができるのが、すごいFICCの特徴だなと思います。
石川:たしかにFICCのみんなは目的思考な考え方を持っているので、最終的なアウトプットを考えた上で「それはやるべき、やらないべき」というのを判断して仕事してますね。
加田木:「言われたからやる」という人がいないんですよね。誰かが「いやいや、それは違う」と言ったら、みんな立ち止まって考えるんですよ。
豊嶋:目的なく、なにかするというのはありえないですからね。「これをやる意味はなんなのか?」というのをみんな意識しながら行動しているなと感じます。
「ブランドに恋してほしい」3人が考える自分たちの将来像
ANESSAのPR・デジタルプロモーションにおいて、FICCが意識すべきことはユーザーインサイト、そして資生堂らしさだけではありません。ただ単純に商品の機能性を謳うのではなく、「いかにANESSAを好きになってもらうか」が重要だと語る3人。
そこでサイトやバナーだけでなく、石川が担当したFacebookページ含めて、スポーツやレジャーで活躍する女性を紹介するなど、スポーツアソシエイションをテーマに「アクティブに輝く女性の美しさ」を発信。美しい女性を応援する資生堂のブランドミッションを形にしていきました。
今回のプロモーションを振り返りながら、今後の各自の展望について伺いました。
石川:世の中に商品がたくさんあるなかで、ベネフィットだけを伝えるのでなく、ブランドが提供する体験を大切にしなくちゃいけないなって。わたしは、「ブランドに恋してほしい」と常に思ってて。恋に落ちて、そのブランドを使い続けるキッカケを提供したい。一方的な発信ではなく、ブランドとのリレーションをつくれるようなことをしたいなと。
加田木:僕も、施策を考えるときは一回身近なものに置き換えて考えることが多いですね。「どうしたらこの商品を買ってもらえるんだろう」ではなく、「どうしたらこの商品を好きになってもらえるんだろう」と考えて、さらにそれを恋愛に置き換えて「どうしたらこの子は僕のことを好きになってくれるんだろう」と考えるんですね。そしたら、どこに連れていったら喜んでくれるかな、なにをしたら喜んでくれるかなと考えますよね。同じことをじゃあこの商品でどうやるのか、という発想で施策を考えています。
石川:プロデューサーって消費者の気持ちも持たないといけないし、商品やクライアントの気持ちも理解しないといけないですよね。そのうえで、消費者がそのブランドと出会ったときに、よりよい体験ができるような施策を考えられるプロデューサーとして成長したいなと思っています。
豊嶋:ディレクターのところには、プロデューサーが考えるプランニングが降りてくるのですが、そのプランニングを最大化するためには何をしないといけないのか、をディレクターは考えなくてはいけない。そのときに、たくさんの引き出しを持っているディレクターでいたいなと思っています。
たとえば「こういうクリエイティブをやればいいんじゃないの?」と言われたときに、「きっとこうしたほうがもっといいと思う!」と言えるような瞬発力を持っていたいですね。だって制作現場にいる人間なので、クリエイティブについては、もっと面白いもの、もっといいものが考えられる、アイディアとして出せる人でありたいってすごく思うので。。
加田木:僕はプロデューサーってあまり主役になっちゃいけないなと思っているんです。「こういうのやりたい!」と言うけども、それを実現するのはデザイナーとかディレクターとかで、プロデューサーの僕は「あそこへ行くんだよ」というゴールだけを設定してあげることが大切。
いろいろな引き出しを持っているメンバーが集ることで、自分が思いもよらぬいいモノができると思うので、みんなが持っている価値を合わせて最大化して提供できる人になりたいなと思います。
インタビュー:FICC 加田木智也、石川アンケル、豊嶋七瀬 / 文・写真:永田優介
※ FICCは2016年2月〜2017年2月の期間においてデジタルマーケティング領域を担当。このインタビューはその実績にもとづいています。