FICCには全スタッフ共通用語として「Sparkjoy(スパークジョイ)」という言葉があり、「ワクワクすること、興味関心があること」を意味しています。また、根幹にある考え方がリベラルアーツであり、一人ひとりの興味から「問い」と向き合い、新たな視点を創造することを大切にしています。そのため、それぞれ自分のSparkjoyを起点として物事を考える文化があり、ディスカッションやクライアント提案にも活かされています。
本連載『ヒト×キョウミ』では、Sparkjoyの視点から社内外の取り組みについてスタッフにインタビュー。FICCにはどんな人がいるのか?どんな考えを持って働いているのか?様々な角度からご紹介します。
第1回は、2020年とある広告賞に挑んだ2組のチームを紹介します。
FICCはWeb制作をルーツに持つことから、クリエイティブをSparkjoyとするメンバーも多く在籍しています。今回のメンバーも仕事以外にプロダクトデザイン・音楽・イラストなど、作ることに真摯に向き合っています。広告賞は別々に応募し、全く異なるアプローチで作品を仕上げました。「クリエイティブプロセスで得た気付きとは?」をそれぞれのチームに聞いてみました。
人と人の間を繋ぐディレクター職の2人が広告賞に挑戦した理由
チームAの増田と於保は、共に東京のメディアプロモーション事業部に所属するディレクターです。広告賞へ応募した当時の2人は、仕事ではアドバイザーと新入社員という関係でした。挑戦した理由についてこう語ります。
増田「会社ではなく社会的に評価されるところに身を置いて、自分の立ち位置を知りたいと思っていました。この会社に来て、何でみんなコンペ出さないんだろうって思って。やろうよ、逆になんでやんないの?と誘いました」
プライベートでは、友人と一緒にプロダクトデザイン製作にも取り組んでいる増田。自分のバックグラウンドに関係なく、最終的にアウトプットが評価されることで社会的評価を受けたかったと言います。
於保「普段の仕事でいざバッターボックスに立った時、きちんと打てるように鍛えるため、今回挑戦しました」
プライベートでは音楽活動の楽曲制作に取り組み、前職では映像制作に携わっていた於保。全てはFICCでの仕事とリンクしていると言います。
作品説明は一切しない。アイデア出しの裏に隠れた狙い
2人は「人の心を動かす体験」にこだわり続け、今回のアイデア出しも強い意思を貫いています。
増田「毎日アイデア出しをしました。ホワイトボードにラフ画を貼って、作品説明は一切しない。印象に残った1位だけ残し、それ以外は捨てる。続けていくと、勝ち上がった作品が出てくる。そこで初めて議論して、細かくクリエイティブに落とし込んでいきました。意図を伝えなければいけないものは、表現できていないもの。シンプルで強度のある企画になったと思います」
広告賞の会場で審査員が順に回るというシチュエーションを想定・再現し、徹底してビジュアルにこだわったそうです。
於保「ブランドが伝えたいことをいかに消費者視点で考えられるか?が求められる仕事。それが審査員の目を引くか?という部分にもリンクしていると思いました。突拍子なアイデアというよりは、伝えたいことはぶらさずに驚きを持たせられるか?その感覚を仕事にも活かしていきたいと思います」
大切なのは、正しい理論だけじゃない。優れたクリエイティブとは
於保「自分の経験から生み出したクリエイティブで人を感動させたい。これからも挑戦し続けようと思います」
仕事×音楽活動を通じて人の心を動かしたいと語る於保は、今後の抱負を語りました。
増田「FICCってマーケティング戦略が強いって言われている会社。ただ、どんなに素晴らしい戦略でも、正しさだけでは人の心は動かない。大切なのは、正しい理論だけでなく、消費者の感情と向き合ってクリエイティブでどう補完するかだと思っています」
前職の営業経験を活かしながらディレクターとして活躍する増田は、過去の経験からどれだけ消費者視点で物事を考えられるか?が重要だと語りました。
より優れたクリエイティブとは、ロジックだけでは説明できない、感覚的な強いアイデアからくるもの。プロダクトや音楽に取り組み、ディレクターとして「人」と向き合う2人だからこそ、行き着いた答えでした。
経験豊富なクリエイティブチームが広告賞に挑戦した理由
チームBの、森田・河田・高木は、東京のメディアプロモーション事業部に所属するクリエイティブメンバー。これまでの経験と感性を活かすべく、挑戦した理由についてこう語ります。
河田「チームで参加することで学びや新しい発見が得られて、チャレンジする価値があると思ったから」
2019年東京装画賞で金賞を受賞し、個人でもイラストレーターとして活躍する河田は、仕事と個人活動を行き来しあうことで、新たな気付きやモチベーションに繋がっていると言います。
森田「クライアントワークでは出来ないようなコンセプトからアウトプットまで、一連のクリエイティブに取り組みたいと思って」
前職は映像制作を専門とし、作品の背景にストーリーが感じられる構造がSparkjoyである森田。今回の広告賞では、自分達の価値を証明する実験でもあったと言います。
高木「何もないところからクリエイティブ脳を呼び起こすのにいい筋トレになると思うし、仕事が落ち着いている時期でも普段から衰えないようにしておきたくて」
広告やコピーが好きという高木は、目標に向かって誰かと一緒に制作するプロセスがSparkjoyだと言います。
「テーマへの共感が出来ない」違和感を探りつつ、アプローチに苦戦
3人は、コンセプトを定義した後、みんなのSparkjoyからストーリーのアイデア出しをしました。しかし、テーマに対する考え方が高木自身の感覚と合わなかったそうです。
高木「自分が感じた違和感を噛み砕いて、いいなと思うものにしないといけなかったのが難しかったです」
コピーライティングを勉強していたからこそ、感覚を合わせ憑依させていく、彼ならではのアプローチがうまくいかず苦戦したと。
河田「高木くんだけ納得できていなかった。私と森田さんはいいじゃん、となったんですけど、そのまま進めてしまってたら、一部の人にしか共感できないものになっていたかなと思います」
高木「どんな言葉を置くのか全然決まらないまま、みんなで考えたストーリーはすごくいいよねってなりました。いったん河田さんにイラストをラフで描いてもらって、締め切り直前まで粘りました。ギリギリで言葉が出て、『これだ!』ってなったんです。めちゃくちゃ難産でした」
森田によって組み立てられたストーリーに、河田の世界観が描かれ、高木の感覚から生み出された言葉をのせて、一つの作品として完成しました。
河田「とにかくみんなでストーリーを考えていたから、最終的にシンプルな言葉に収束出来ました」
チームだったからこそ出たアウトプットであり、クリエイティブジャンプ(アイデア出た!という瞬間)の手応えを感じたと河田は言います。
チームで取り組み、個の考えを交差させて見えたこと
森田「違和感の後で納得がいくようなクリエイティブになりました」
妥協せず徹底的に向き合ったことで、腹落ちするストーリーになったと言います。
河田「それぞれの考え方を交差させる習慣があって、みんなの視点を取り入れて尖らせていくことが出来るのがFICCです」
イラストに向き合い、自分のスタイルを追求し続けている河田だからこそ、広告賞は個人ではなくチームで取り組むことに意味があったと言います。
今回のプロセスは、FICCが大切にしているリベラルアーツそのものでした。イラストや映像制作に取り組み、「作品」と向き合う3人だからこそ、そのプロセスを導き出せたと言えるでしょう。
種をまき、挑戦し続ける
チームAは、人と人を繋ぐ役割でもあるディレクター陣。個人のSparkjoyにもあるプロダクトデザインや音楽を通じて「人」に向き合う姿勢は、アイデア出しだけでなく仕事にも色濃く反映されています。
チームBは、新しいものを生み出すクリエイティブ陣。それぞれの経験や価値観を交差し、「作品」としての価値を追求し続ける姿は、日頃の業務に取り組むプロセスそのものでした。
彼らは、クリエイティブに対する展望を次のように述べています。
「自分の経験から生み出したクリエイティブで人を感動させたい」
「次の広告賞に挑戦するために準備している」
「案件でクライアントに対して価値を提供できるようなクリエイティブを作りたい」
FICCが大切にするリベラルアーツとは、一人ひとりの想いを起点に問いと向き合うこと。さらに対話を通じて視点を増やし、新たな価値を創造すること。今回の2組のチームは、クリエイティブ活動を通じてリベラルアーツを体現していました。チームAは人、チームBは作品を起点とし、個のSparkjoyを交差させ、全く違うアプローチで作品を完成させました。
このように、FICCでは新しい価値に繋がるアイデアの種をまき、育むクリエイティブの場作りを社内で提供しています。これからも活動の場を模索し、挑戦し続けていきます。
執筆:黒田洋味(FICC)