祭の楽しみは、守ることにあり。変わらないために変わり続ける『祭エンジン』の挑戦

FICCには、ブランドの商品やサービスのプロモーション領域で、企業の生活者に対する活動を支援する部署があります。関東・関西の2拠点にあり、地方だからこそできる支援を行っているのが関西にあるメディア・プロモーション京都(以下、FICC京都)のメンバーたち。

現在、デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みは地方行政にも波及し、首都圏と地方地域の関わり方は常にアップデートされています。地域の企業やブランドに関わる人たちの想いそのものが資源になるよう、ブランドマーケティングで地域の自走を支援するプロモーションのあり方を考えているのが、FICC京都です。

京都で神輿や神棚の修理・製作、そして祭り文化の活性化を事業としている、一般社団法人明日襷(あしたすき)の代表理事・宮田 宣也さん。このたびFICC京都はそんな宮田さんとともに、地域の祭を応援するプロジェクト『祭エンジン』を立ち上げました。

『祭エンジン』とはどんな仕組みで、どんな未来を描くものなのでしょうか。FICC京都の事業部長・村松 勇輝と、プロデューサー・伊藤 里加子が、宮田さんとともに語り合います。

365日のうちの364日の方に祭り存続のチャンスがある

宮田さんのお祖父様は神輿職人。地元・横浜の祭りではお祖父様がつくった神輿があがっており、その遺志を引継ぐ形で本格的に祭りの世界に入ったのだそうです。

その後、全国の祭りに行って神社や神輿について学ぶうち、高齢化や過疎化で祭りそのものがなくなっている集落があるのを知った宮田さん。そのことに危機感を覚え、集落の外からも祭りを応援できる仕組みをつくろうと立ち上げたのが『祭エンジン』です。

宮田 「『祭エンジン』は、地域産品を購入すると売上の1割が神社に寄付され、祭りのために使われるという仕組みです。いろいろな地域を取材しながら、どんなものを提供いただけるのか、どんな祭りを応援できるのかを現地の方と一緒に考え、地域の外からでも支援できる仕組みを目指しました。2021年現在ウェブサイト上では4つの祭りが取り上げられていますが、今後少しずつ数を増やしていく予定です。

僕はこれまでいろいろな神社に神輿を担ぎに行き、高齢化や過疎化で縮小していくさまざまな祭りを見ながら思ったのが、『年に一度盛り上げるだけでは、祭りは続かないな』ということでした。祭りの日だけ盛り上げてもダメなんだと。

でも逆に言えば、“365日のうちの364日の方に祭り存続のチャンスがある”ということ。普段の仕事や思いの詰まったケの日を良くしていって、その積み重ねの先にハレの日がある。そんな支援ができる仕組みを作りたいと考えました」

▼祭エンジンの仕組み

宮田 「僕は“祭りの本質的な構造って、「人→産業→神社」の三角形のサイクルで成り立っている”と思うんですよ。人が営み、そこで得たものを神社に奉納して、神社から「おかげ」をもらって、また営みを豊かにしていくのです。要は人が減っている中で、このサイクルをどう盛り上げていくかだと思うんですね。

『祭エンジン』は、そのサイクルをテクノロジーや人の想いで促進しようという仕組みです。これによっていろいろな祭りが再生していけば、日本全体の希望になっていくんじゃないかと思います」

宮田 「これまでにだって、戦争が起きたり明治維新が起きたりして、何度もそのサイクルが消えてしまいそうな危機があったはずなんですよ。それでも今に引継がれているのは、先人たちがその時代ごとに答えを出してきたからだと思います。僕はそのバトンをもらって『この時代に祭りを残すための答えを出してみろよ』と言われているような気持ちなんです」

「社会にとって意味がある」アイデアを世に広めたい

「この時代に祭りを残すための答え」として『祭エンジン』を考えた宮田さんのアイデアに対して、FICCのふたりが共感したのはなぜだったのでしょうか。

伊藤 「私、もともと祭りが大好きなんですよ。地元の愛媛では『新居浜太鼓祭り』っていう祭りがあり、幼い頃から毎年欠かさず参加しているんです。

そんな私の祭り好きを知っている友人が、宮田さんを紹介してくれました。そのときに『過疎化や高齢化で、祭りがなくなっている地域があるんだよ』と教えてもらいました。うちの祭りって大きいし人がいっぱい集まるから、なくなるだなんて想像したことがなかったんです。でも、もし祭りがなくなったらすごくいやだなぁと感じました。

そうしたら宮田さんに『僕は祭りのことを日本一考えている自信があるけど、テクノロジーのことはわからないんだよね』と言われて。『私はその分野のことだったらわかるから、一緒にやりたい!』と思ったんです。いち祭り好きとして、できることをしたいなと」

村松 「僕はその話を聞いたとき、すごくいいなと思いましたね。まず宮田さんのアツさにやられました(笑)。

FICC京都事業部としても、『首都圏だけじゃなく地方にも視線を広げて、自分たちが貢献できる範囲を大きくしていこう』という目標を掲げていたんですよ。地方の企業・団体に向けて、自分たちが培ってきたノウハウや実行力をもってお手伝いしながら、『より良い日本』を目指していこうと。

なので、今回の出会いはチャンスだと思いました。『祭エンジン』のアイデア自体に『社会にとって意味がある』と感じたので、それを世に広める手伝いを一緒にしたいと思ったんです」

それぞれの「祭り」に対する想いとは?

それぞれの立場から『祭エンジン』に共感したFICCの村松と伊藤。そんなふたりにとって、そして宮田さんにとって、もともと持っていた「祭り」観とはどういうものだったのでしょうか。

伊藤 「私にとっては『その日から1年が始まる感覚』ですね。祭りがない人生なんて考えられないくらい、お正月のような“節目”の日って感じがします。地元を離れてからも必ず祭りの日には帰っています。そこで家族の元気な姿や、友達が太鼓台を担ぐ姿を見て『ああ、みんな元気にやってるな』と安心できます。私の中では、故郷と強く結びついているんですよね」

村松 「僕はこれまで引越しを10回くらい繰り返したから『故郷』って感覚はなくて、実は思い入れがある祭りはないんです。でも、それぞれの街で盆踊りしているところに参加したりするのは、シンプルに好きなんですよね。

お祭りはみんなが受け入れられる空間。外も内も、もっと言えば善悪すらないような、そういうのを超越しているように感じるんですよ。なんでかなというと、『祈る心』でつながっているからじゃないかと思うんです。いい人も悪い人も、その日だけは気持ちの良い祈る心を持っているんです。だからどこのお祭りも好きだし、それを残したいという気持ちにすんなりなれましたね」

宮田 「僕は祭りを『約束を守る日』だと思っているんです。毎年祭りに神輿を担ぎに来ては、『また来年な』と言って別れます。僕はそうやって1年に1度、今ここにいる人、過去にいた人、そして未来にいる人に向けて約束を守ってきたように思います。その日だけはここに来て、伝統を守る作業をするのです。『ご先祖様からバトンを受け継いできたからこそ今があるんだ』と、祭りを通して常に認識しているんだと思います。

だからこそ、祭りが行われることには意味があります。今年もきちんと約束を守れたという事実が、強い絆、強いコミュニティ、強い一日をつくって、人の人生に影響を与えるんじゃないかなと思うんです」

現代における「祭り」の存在意義って何だろう?

コロナ禍によってあらゆる祭りが中断されている今は、「祭りがない」という状況をみんなが一斉に自分ごととして感じているときとも言えます。その経験は、「現代において『祭り』の存在意義って何だろう?」と考えるきっかけともなっているのではないでしょうか。そんな問いに、まずは伊藤が「私は今こそ祭りが必要だと思っています」と答えました。

伊藤 「情報もエンタメも溢れている現代では、一人ひとりの豊さも多様化してきましたが、逆に言えば『知らないと選ぶこともできないな』と感じることが増えました。

たとえば今、情報化が発達する一方で『地縁』を感じる機会が非常に少なくなっています。地域の人と顔を合わせて、世代を超えた人と利害関係なく交流できる機会。祭りは、そのど真ん中ですよね。頭と体を目一杯使って、みんなで楽しさを極めていく。その豊かさを知らない人が増えていくのは悲しいなと思います。

コロナで移動できなくなったからこそ、今いる場所、近くの場所でどう豊かに楽しく過ごすか。それを教えてくれるのが祭りだと思うんですよね」

村松 「僕は、全国に神社があることで、祈る気持ちや他者を想う気持ちが、自然と生活の中に溶け込んでいったんじゃないかなと思っているんです。それを自分の子どもたちにも残したいですね。『今の時代だからどうこう』じゃなくて、どの時代においても変わるべきものじゃないのかもなと思います。

でも、支援の仕方は変わらないといけません。明治時代はこのやり方、今はこのやり方と、本質を変えさせないために支える方法は変えるべきです。だから『変わらないために変わり続ける』のが大事なんですよね。FICCではその『変わる』ところを担って、ウェブサイトをつくって仕組みを構築したり、いろんな人に伝えて発展させたりしていくお手伝いをしているんです。

宮田 「村松さんの言う通り、僕も祭りの本質は変わらないと思っています。営みをして、奉納をして、『おかげ』をもらって豊かになっていくという『三角形のサイクル』は、もしかしたら何万年も前から変わっていないのかもしれません。いろんな知恵だとか、人との付き合い方、土地を大切にする方法……そういった“先人から受け継がれてきたものが、祭りという仕組みの中に保存されてきた”ように思うんです。そして祭りに参加することで、今を生きる人たちに再インストールされてきたんじゃないかなと。

僕は『事物の螺旋的発展』という考え方がすごく好きなんですよ。時代によって産業や社会の構造は変化してきて、横から見るとめちゃくちゃステージが上がっているように見えるけれど、上から見るとずっと同じ轍を踏んでいる。産業や社会のあり方が変わっても、その先にはいつも『人や地域とのつながりは大切だよね』と。だからきっとどの時代でも、『今こそ祭りが必要だよね』と議論されてきたんじゃないでしょうか。

そういうふうに“『人が豊かに生きていくためにはどうすればいいのか』を考える、強い手法として祭りが残っている”と思います」

エンジンだけでは動かないけど、歯車がくっつくと動き出す

最後に『祭エンジン』を通してどんな未来を作っていきたいかを、それぞれに語ってもらいました。

伊藤 「この仕組みによって『祭りが存続できた』という事実を積み上げていきたいですね。先日、長崎の方から『うちの祭りも載せてほしい』というお話をいただきました。そういうふうにいろいろな神社や祭りにとって頼りになる場所でありたいなと。出会うことのなかった人たちをつなげて、現場の知恵や方法を共有していきたい。みんなで考えていくための、ハブのような存在にしていきたいですね」

宮田 「僕も『祭エンジン』を、祭りを守るためのインフラにしていきたいなと思っています。

よく各地の祭りで出会ったアツい人たちに『一番好きな祭りは何ですか?』と聞くんですけど、みんな口を揃えて『地元の祭りが一番だ』って言うんですよね。他にいっぱい派手な祭りや大きい祭りがあるのに『自分の地元の祭りが、ずば抜けておもしろい』と。

それってなぜかというと、“祭りの究極的な楽しみ方が『守っていくこと』だからじゃないか”と思ったんです。当事者として、仲間と伝統を守っているから楽しいんです。だから『祭エンジン』は、祭りの究極的な楽しみ方を提案しているサービスでもあります。一緒に守ろうぜ、楽しいことをしようよと。

地元に祭りがなくても、遠くに住んでいても、一緒に『守っていくこと』ができるようになれば、祭りを楽しむ人たちが増えていくと思うんです。そんな広がりができれば、すごくおもしろいだろうなと思っています」

村松 「僕が思っていることも、ふたりとなんら変わりません。『祭エンジン』って、『エンジン』なんですよね。動力源は宮田さんで、そのエンジンにいろんな歯車がガチャンガチャンとくっついていく感じ。エンジンだけでは動かないけど、歯車がくっつくと動き出す。きれいな歯車でなくてもいい、いびつでも小さくてもいいんです。『いろんな歯車が集まってめちゃくちゃ動く!』みたいな(笑)。そういう『祭エンジン』が育っていくといいなと思ってます」

祭りの究極的な楽しみ方は「仲間と伝統を守っていくこと」──

宮田さんの言葉から、これまでの社会では「どうしたら祭りを守れるのか」が提示されていなかったことに改めて気づかされます。『祭エンジン』という仕組みは、ひとりひとりが祭りを守っていくための一つの答えなのです。

それぞれ異なる「祭り」観を持った3名がともに動き出したように、誰もが祭りを守り、祭りを楽しめる未来へと進んでいく『祭エンジン』。

あなたにとって「祭り」とは何でしょうか?

▶祭エンジン:https://matsuriengine.com/

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