お互い違うから丁度いい。多様性の掛け合わせを体現するふたりが意識する、クライアント対応の心がけ

近年、広告業界はテクノロジーの進化や生活者の行動様式の変化などにより、急速な変化の最中にありました。さらに、2020年のコロナ禍が従来の生活そのものを半ば強制的に変化させ、今でも多くの企業がその対応に奔走しています。

FICCメディア・プロモーション事業部(以下、MP事業部)でクライアントから相談を受ける機会が多い、雨宮 崇人と瀬田 翔太朗は、昨今の変化をどのように捉えているのでしょうか。雨宮と瀬田両名に、これまでのキャリアを振り返ってもらいながら、クライアントと接する際の心がけについてインタビューを実施。また、仮想クライアントから相談が来た際のアプローチについてもディスカッションを行うと、それぞれの個性も見えてきました。

▲写真左:雨宮 崇人 / 右:瀬田 翔太朗

メディア運営とサロン店長。異なるキャリアを持つふたり

FICCが目指しているのは、イノベーションによるブランドの社会価値と経済価値の創出です。このイノベーションを実現するためには、社員それぞれの多様性を掛け合わせることが必要不可欠。雨宮と瀬田は、現在同じ事業部のメンバーとして連携していますが、これまでお互いに異なるキャリアを歩んできました。

雨宮「私が社会人になった頃、TwitterなどのSNSが日本でも流行ってきており、インターネットやデジタルの波が来ていると感じました。また、音楽を中心としたカルチャーや、生活者の心に刺さる広告コンテンツが学生の頃からずっと好きだったこともあり、新卒入社した会社を辞め、コンテンツを発信する出版系メディアの会社に転職したんです。

その会社で、デジタルメディアのセールスや、クライアント企業のオウンドメディアのコンテンツ企画などを行うプロデューサーのような役割を担っていました。メディアはユーザーとの距離も近く、コンテンツの反応が直接得られる立場だったため、働く意義は感じていました。しかし、ブランド視点のマーケティング活動において、担当するメディアの活用は数多くある施策のひとつでしかありません。次第に、よりブランドに近い立場からブランドを理解し、戦略的なサポートがしたいと考えるようになり、FICCに入社しました。現在はストラテジックプランニングを中心に案件をリードする役割を担っています」

瀬田「私のキャリアは、デザインやマーケティング関連のキャリアを積んできた方が多いFICC内では少し変わっているかもしれません。もともと、リラクゼーションサロンの店長をやっていたんです。立ち上がったばかりだったサロンを黒字化させて一区切りがついたと感じ、成長産業のインターネット業界に飛び込んでいきました。

最初の会社でSEOやデジタル広告、Webディレクションを学び、BtoCマッチングサイトを運営した後、次の会社がFICCだったんです。現在はストラテジックプランニングからメディアプランニングなどの戦術にまたがって、クライアントニーズに最適な体制構築から、プロジェクトの品質向上まで担当しています」

新規相談では、第三者視点だからこそ見いだせる「資源」と、明確な「目的」を整理する

FICC MP事業部の顔としてクライアントと接する機会が多いふたりは、コロナ禍になってから、クライアントからの相談内容に共通点を感じていると言います。

瀬田「近頃、FICC MP事業部への新規相談の傾向は、大きくふたつあると感じています。ひとつは、デジタルトランスフォーメーション(以下、DX)の相談です。Web広告のPDCAをまわすなどプロモーション施策レイヤーをよりデジタル化するのではなく、顧客理解や戦略構築に活かすためのマーケティングデータ整備について、相談を多くいただきました」

雨宮「もうひとつは、『ブランドのあり方』についてや、『ターゲットがわからない、わからなくなってしまった』という相談ですね。コロナ禍の影響もあり、市場や生活者が大きく変化している最中でもあります。この相談の場合は、定量と定性両方の視点から調査を行ってターゲットとなる生活者を改めて理解し、ブランドを今後どのように成長させていくかについての示唆を出させていただいています」

クライアントから来るこうした相談に乗る際、ふたりには意識している点があると言います。

雨宮「私はマーケティングやブランディングにおいて、『人を科学する』ことが最も重要だと考えています。n=1のターゲットインサイトを深く理解しないまま実施する施策は、結果的にブランドや生活者に価値が還元されにくい。DXも、データかターゲットを読み解くための1手段でしかありません。プロジェクトのなかでも、DXの推進そのものが目的になってしまわないように、クライアントと対話するようにしています」

瀬田「まさに雨宮さんが話されているように、私もクライアントと接する際は、目的と資源の整理を意識していますね。たとえば、大規模な相談ほど与件が複雑になってしまう傾向がありますが、達成すべき目的をシンプルな形で捉え直すことで、取るべきアクションを明確にするようにしています。

資源とは、ブランドがすでに有している製品の特徴やイメージ、店舗、顧客情報などの総称で、戦略や施策で活用できるブランドの資産です。代理店の客観的な視点だからこそ見いだせる資源もあるため、目的を最短で達成するために必要な資源を広い視野で発見・整理することを心がけています」

雨宮「ブランド側の整理も重要ですが、資源には『ターゲットの価値観』もあると考えていて。ターゲットが好きなコンテンツやよく視聴するメディアといった表層的な情報だけではなく、その行動や文脈の裏側にある生活者のベネフィットを『問い』を持って読み解くことが重要です。

たとえば、社会変化の影響がいち早く現れるコンテンツが、音楽と言われているんです。私も音楽を『炭鉱のカナリヤ』のように捉えており、聴きたい音楽はその人が置かれている身体的または心理的状況を直接表していると考えています。プライベートでも、生活者のなかでヒットしている音楽や歌詞、聴かれ方から生活者の文脈を読み取ったり、価値観を分析したりすることを意識しています。

このように生活者を価値観まで理解してこそ、ブランドに共感してもらえる施策を打ち出せると考えています。ブランドが生活者を幸せにするために、どのようなことができるのか。それをプロジェクトにおける目的と資源という形でわかりやすく整理するようにしています」

ダウントレンドは、培った資源を失わない施策で乗り切る

次に、仮想クライアントからの相談をもとに、どのように課題へアプローチをするのかディスカッションを実施。「限られた予算でコロナによるダウントレンドを乗り越えたい」というテーマでは、目的と資源の整理に加えて、マーケティングの特性についても意識すると語ります。

雨宮「まず、求められる成果について整理したいですね。売上だとしても、トレンド後の成長を見越した準備としての施策か、一時的に持続させるための施策なのかによって、立てるべき戦略も異なります。たとえば、『売上◯%アップ』という目的は、『ブランド新規の獲得』や『1顧客あたりの購入数増加』などに細分化できますが、この目的の捉え方によってその後のアクションが変わってくるからです」

瀬田「目的は、ブランドが避けたいリスクから整理するケースもあります。予算削減や棚落ちなど、ブランドやその担当者が避けたい事態を伺うと、どのような目的を達成すべきか明確になりやすいです。今回のテーマを、『ブランドが存続し続けるために必要な売上がすぐに求められている』と解釈した場合は、短期的に売上を生み出せる施策を提案するかもしれませんね。

また、施策プランニングをする際も、やはり資源に注目したいです。予算は数ある資源のひとつでしかありません。少ない資源ではなく、今、活用できる資源を見出すことが重要です。たとえば、ある消費財のプロモーションでは、棚取りができた店舗周辺にだけWeb広告を配信できるジオターゲティングを実施しました。この時、棚取りができた店舗を資源として捉えたように、目的達成のために活用できる資源は何かを一緒に考える機会を持ちたいです」

雨宮「マーケティングと資源の点だと、『マーケティングは掛け捨て施策ではなく、資源を増やすための投資』である点も意識してお話させていただいています。ダウントレンドを一時的に乗り越えるためでも、対象ターゲットのデモグラフィック属性だけを無理に広げてブランド接触者を増やすような施策は、安直に行うべきではありません。一時的な売上だけを優先して、これまで積み上げてきたブランドイメージを失ってしまうと、中長期的なLTVが下がり、結果的には利益を損なうリスクがあるからです。

私たちが提案するマーケティングは、施策への投資によって、これまでの顧客やブランドイメージを生活者に合わせてアップデートする内容になるように心がけています」

ブランドのあり方は、主体者が「どうありたいか」からはじまる

続いて、「コロナによる変化を捉えたブランドのあり方を考えたい」という、中長期的なブランド成長についての相談です。コロナ禍に直面した多くのブランドが、今後の運営に不安を抱えています。実際に増えているこの相談に対応する際は、目的や資源の整理とは異なるアプローチから入ると言います。

瀬田「私は、直近のトレンドに必要以上に振り回されず、中長期的や視野で『ブランドがどうありたいのか』の言語化が最も重要だと考えています。ブランドが、誰に、どのように喜んでもらいたいのか。コロナ禍などによって生活者の行動様式が変わっている今だからこそ、改めて強く認識する必要があると考えています」

雨宮「私も、このような相談が来た時は、ブランドの未来について、担当者の方からできるだけ本音を聞くようにしています。これまでの当たり前や定石が通用しなくなった時は、ブランドと担当者の決意や覚悟を固めることが、未来を切り開く最初のステップだと考えているからです。

実際にアパレルブランドの立ち上げをサポートさせていただいた際は、担当者だけではなく、ブランドターゲットに近い社員の方と実際にお話をさせていただきました。毎日の楽しみや、嬉しいと感じること、本当に解決したいジョブ、大切な人のために心がけている行動などを伺い、ブランドのコアとなる提供価値について示唆を提示させていただいたんです。ただ、『こうあるべきです』という示唆の提案ではありません。方針を決めるために集めた材料をすべてまとめてお渡しした上で、主体者となる担当者の方を中心に覚悟という意思決定をしていただくための提案でした。

私たちがブランドのためにできるサポートは、こうしてブランドに対する当事者の熱量を上げていくことだと考えています」

それぞれが描く理想のパートナーシップと、秘めていた志

インタビューの締めくくりに向けて、「関係者間の調整が仕事」とも表現されるほど、間を取り持つ「代理店」という立場について質問。「代理店における理想的なパートナーシップ」について伺いました。

雨宮「個人的には、『代理』という言葉に違和感があるんです。私たちは、クライアントの代わりに仕事をしているわけではありませんから。私が今の立場になって貫いている信条は、業務の一部を代理することではなく、クライアントや共にプロジェクトを行う制作パートナー企業と『共犯関係』になることですね。

いわゆる『ブランドの中の人』にはなれませんが、クライアントと同じゴールに向かって、同等以上の主体性を持って取り組む共犯者でありたいんです。ゴールへ向かう道で迷っている時に、客観的な意見でより良い道を示す役割なのだと考えています。

また当然ですが、広告主と代理店はビジネス関係でもあるため、ずっと一緒に仕事ができるわけではありません。私たちが離れてしまう日は絶対に来るため、クライアントが自走してゴールできるように、マーケティング活動を整備する形でゴールまでの道を整備しきることが、プロの共犯者にできることなのかなと考えています」

瀬田「私は、クライアントを脳だとした場合、代理店は理想的な右腕でありたいと考えています。なぜなら、考えていることすべてを言語化できる人はおそらくいないからこそ、その前提でも意思疎通がスムーズにできる存在でありたいからです。クライアント自身がすべてを伝えきれなくても代理店側から積極的に情報を引き出し、高い解像度で意図を組み取ってスムーズに動ける関係が理想ですね。

また、FICCが掲げるValueの『Find a better way』は、クライアントとの連携でも体現できるよう意識しています。期待以上の施策成果を出すことはもちろん、クライアントの社内合意の取りやすさまで意識したプランニングや、来期につながるレポーティングに至るまで、期待されているアウトプットを超えるものを出す。常に期待以上を出すことは難しいかもしれませんが、最初からその心意気がなければ、スムーズに連携できるほどの信頼関係は築けませんから」

最後に、今後の個人的な展望ついて語るふたりは、お互いの違いを再認識していました。

瀬田「今は、この仕事が楽しいんです。もともとプライベートでも、戦略思考が求められる投資やポーカーなどが得意なタイプのため、この思考を活かせる環境に感謝しています。変化が激しい時代のため今後の人生を明確に描くのは難しいと感じていますが、ビジネスを行う以上は利益が生命線になるため、経済価値を生み出せる人はかっこいいなと考えています。お金は価値の証明であり、明確な評価指標でもありますから。そのため、まずはクライアントの利益を創出して、FICCの利益にもつながる『win-winの関係』を築き、育てていきたいです。その結果、自身の価値も向上している未来をつくりたいですね」

雨宮「私は、瀬田さんとは真逆かもしれません。お金も大事ですが、私はいつも『カルチャーを耕したい』気持ちのほうが強いんです。耕すとは、存在しないものを無理やり生み出すのではなく、『そこにあるものを育てる』という発想ですね。音楽やファッションなどのカルチャーから生まれたコンテンツがあったからこそ、今の自分がいます。だから、それに恩返しがしたいと考えているんです。そして、この考えはブランドマーケティングにも通じていると考えています。

FICCでは、『人の想いや学びを掛け合わせてイノベーションを起こす』という素晴らしいValueがあり、これがカルチャーの創出にも通じていると感じているんです。新しいカルチャーも、ほかジャンルとの掛け合わせによって生まれてきます。クライアントやビジネスパートナーだけではなく、アーティストや科学者、スポーツ選手など、さまざまな考えや背景を持つ人たちとかかわりを持って視点を掛け合わせることが、そのきっかけになるんです。将来的には、自分自身が新しい価値やカルチャーを生み出すきっかけになりたいですね」

n=1のターゲット理解を強みとする雨宮と、目的と資源の整理に秀でた瀬田。「タイプが全然違う」と笑いながらも、「このふたりだから丁度いい」と語ったシーンが印象的だったふたり。それぞれ異なる考え方を受け入れ、お互いの強みを活かすふたりは、今日もFICC MP事業部メンバーの顔として最前線でクライアントに耳を傾けています。

ABOUT US

未来の社会を創造する
「ブランドマーケティング」

  • 持続するブランド
  • 市場を創るマーケティング
  • 共創がつづくクリエイティブ
  • 存在意義の共創

FICCは、人の想いの共創を通じて、企業やブランドのビジネスを成功へと導くブランドマーケティングエージェンシーです。
ブランドの社会的意義による新たな市場を創造する「ブランドマーケティング」の考えと、20年以上にわたる実績で培ったノウハウを通じて、企業のブランディングやマーケティング活動の支援、さまざまなセクターの方々と未来に向けた取り組みを行っています。