環境問題、食料問題など地球規模で解決していかなければいけない課題に対し、国連はSDGs(持続可能な開発目標)の達成期日である2030年までの10年間を、「Decade of Action」(行動の10年間)として全世界に呼びかけています。
日本企業も、ビジネスでいかにSDGsに貢献するかといったことに取り組まれている企業も多い中、マーケティング業界こそ、この課題に真剣に向き合わなければいけないと考えています。
企業やブランドの社会的意義の重要性が高まる中、持続的成長を実現するために不可欠であるのが「ブランドマーケティング」の考え方です。今回はブランドマーケティングとは何なのか、そしてなぜFICCではブランドマーケティングを大切にしているのかを代表の森が語ります。
マーケティング業界こそ未来に責任を持ち、社会的意義のある市場をつくることが求められている
昨今のコロナ禍により、「この状況はいつ収束するのか」「いつ出口が見えるのだろうか」といった声が聞こえてきますが、果たして私たちはトンネルの中にいる状況なのでしょうか。
実は今、私たちはトンネルの出口に立っていて、その先に広がる世界を歩み出していると考えると、起こさなければいけない行動は変わってくるのではないでしょうか。
そもそもで現代は、コロナ禍でなくともテクノロジーを中心に様々なことが急速に変化していて、常にこれまでの当たり前が当たり前ではなくなる時代ですが、コロナ禍によりその状況が加速しているということは間違いないと思います。欧州では「グリーン・リカバリー」と呼ばれる、コロナ禍からの経済回復と気候変動問題の解決をセットで考えなければならないという動きが起きています。世界経済フォーラムから発信された2021年のテーマは「グレート・リセット」。これまでの経済成長だけを追い求め、格差により成り立たせてきた資本主義の仕組みが、見直されるべきときであると提唱されています。
企業やブランドだけでなく、一人ひとりが立ち上がり、社会に対して責任を持って行動することが求められている時代に突入し、「未来に対してどう向き合うか」と真剣に考えなければいけないのだと私自身感じています。
今日、よく耳にする「SDGs」「サステナビリティ」「多様性」「パーパス」……といった言葉自体は新しく、ここ数年で急速に広まった言葉であるため、一過性という意味での「トレンド」というような捉え方をされることもあるかもしれませんが、それがトレンドか否かという議論をするのは、本質的ではないと思っています。
世界中で、日本で、そしてマーケティング業界に限らずあらゆる業界で、これらの言葉が飛び交っているのは、私たちが未来に「責任」を持ち、行動しなければならない時代にいる……と理解することこそが、トンネルの「出口」に立つということではないでしょうか。
マーケティング業界に今求められていることは何かと考えると、それは「どういった未来をつくっていくか」を真剣に考えることだと思っています。
そもそもマーケティングとはなんでしょうか。日本マーケティング協会は「企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である」と定義(※1)しています。
つまりマーケティングは、モノを売ることや市場調査をするといったことではなく、市場を創造すること。つまり、私たちの未来を創造していくことこそがマーケティングの本質なのです。
どのような市場を創造するかは定義されていません。だからこそ責任があるのだと思います。マーケティング業界こそ未来に対して責任を持ち、社会的意義のある市場をどのようにつくっていくのか、どのようにブランドと生活者を繋げ、より良い社会をつくっていくかを真剣に考え、関わる全ての人たちと共に学び、探求し、アクションし続けることが必要だと思っています。
(※1)参照:日本マーケティング協会サイト
ブランドマーケティングとは?ブランドの存在意義自体がマーケティングの最重要資源である
社会的意義のある市場をつくる上で、FICCが大切にしているのが「ブランドマーケティング」という考え方です。
そもそもブランドとはなんでしょうか。クー・マーケティング・カンパニー 代表取締役で、元P&Gのマーケター音部大輔氏は「ブランドは消費者の中にある『意味』である」と提唱されています。マーケティングが市場を創造することであれば、ブランディングはブランドの 「意味」 を創造することです。
多くの企業では、ブランディングとマーケティングとが分けて扱われ、予算や担当部署も分かれているという状態ですが、果たしてそれは本来あるべき姿なのでしょうか。
企業やブランドの存在意義は様々で、「業界を変えるため」「誰かを救うため」もしくは「営利目的のため」といったそれぞれの存在意義を持つことができますが、仮に「営利目的のため」ということが生活者の中にあるブランドの意味だとしたら、今の消費者はそういった独りよがりのブランドを選ぶことはないでしょう。社会課題への意識が高いZ世代や、SDGsを学校で当然のように学んでいるその先のα世代がメイン消費者となる時代もすぐ目の前に迫っています。
また、「優れた商品だから」と機能的価値のみでマーケティングを行っては、生産技術の向上等により模倣が容易となった今、機能的価値のみで独自性をつくり続けることは難しいでしょう。いかに競合と同質化することなく、自社独自の存在意義は何なのかを追求することが大切なのです。
「ブランドマーケティング」は、生活者の中に今あるブランドの意味を理解し、時代の流れや競争環境を捉えて、ブランドがこれからどういった意味であるべきかを描き、その意味が求められる市場を創造し続けていくことです。
企業やブランドに社会的意義が求められる時代であるからこそ、未来に対して責任を持つブランドの存在意義が、マーケティングの最重要資源となる「ブランドマーケティング」という考え方が重要なのです。
生活者一人ひとりの想いも紡いでいくような市場創造をしなければ、社会は変わらない
FICCでは、自社の存在意義を「あらゆるブランドと人がパーパスを持って、未来を創り続けている世界の実現」と定めており、FICCと関わる全ての人たちと共に実現したい理想の世界、ビジョンとして信じているものです。
そして企業やブランドだけでなく、私たち一人ひとりの「人」に対してもパーパス、存在意義は大切にされるべきであると考えています。なぜなら、ブランドは企業のものではなく、生活者の中に生まれるものであり、理想とする社会の未来に対して、生活者一人ひとりの想いも紡いでいくような市場創造をしなければ、社会は変わらないと信じているからです。
私たちに今求められているのはアクション、すなわち行動です。ここでいう行動とは、強制されて行うことではなく、自らの意思で動き続けることです。そしてSDGsにおいても2030年までの10年は 「Decade of Action」と言われています。
そのためには、ブランドの社会的意義がブランドに関わる人たちや生活者の心を震わせ、心を動かし、主体的な行動が生まれるような「動機」となりうるものであることが重要であると考えています。
動機とは、心理学では「動因」「欲求」「行動」という3つの段階に分かれていると言われています。「そこに動機があるのか?」「あなたの動機は?」といったように、「動機」という言葉は一般的に会話などでも使われますが、それら3つの段階を細かく分けて普段の生活で話すことはないですよね。
しかし、ブランドと生活者が共に存在意義から市場を創造していくためには、この3つの段階をしっかりと理解することが重要だと思っています。なぜなら理想の自分と現状の自分のギャップが動因となり、人は欲求が生まれ、そして行動をするからです。現状に満足していたり、無関心な状態では動機は生まれないのは、動因が生まれていないからなんですね。つまり、理想の自分を持ち続けること……まさに、自分自身の可能性を信じ、自分自身に出会うことの興味を持ち続けることが、主体的に行動を起こし続ける源泉になると考えています。
そして企業やブランドの社会的意義が自分ごと化されなければ、そこで働く人や生活者含め、関わる人たちにとっての動機にはなりえません。社会的意義を押し付けるのではなく、一人ひとりの動機に、その社会的意義をどのように繋げ、紡いでいくのか……それがこれからの未来を創造していく社会において、とても重要であると考えています。
だからこそFICCでは、ブランドの存在意義だけでなく、人の存在意義も「パーパス」として、これからの未来を創造するために、大切にし続けるべきものであると考えているのです。
どれだけ技術が進歩しても、未来をつくるのはいつでも「人の想い」である
これまでの当たり前の世界の中では、新たな価値は創造されません。また、環境や仕組みがやってくれるから自分は関係ない……という意識の集合体では、組織はもちろんのこと社会全体においても未来を共に創造していくことはできないでしょう。
多くの社会課題は、固定観念や既成概念への囚われによるものです。それらから解放されることが、私たちが未来を創造する第一歩なのです。一人ひとりの想いを社会につなげ、社会や業界の既成概念、そして私たち自身が固定観念にとらわれることなく、自由な思考を持つこと。そして、理想の社会に向けて新たな「問い」を立て、互いの視点をかけ合わせながらイノベーションを起こすことができる共同体こそが、未来を創造することができる共同体だと信じています。
FICCでは、人の存在意義が貴重なものとされ、社会に新たな価値を共に創造していくために、「ONE FICC ー CROSS THINK TO INNOVATE」という取り組みを継続しています。毎月全社で開催しているワークショップでは、答えのない「問い」に向き合い、お互いの視点をクロスさせて導き出したイノベーションの種から具体的な価値の創造までを追求しています。
自社の中から始めた「CROSS THINK TO INNOVATE」は、今ではFICCの社員の想いと外部の企業や一般社団法人の方々との想いをクロスさせることにより様々な取り組みが広がっています。
たとえばお祭り文化の活性化を事業としている一般社団法人明日襷(あしたすき)と一緒に地域のお祭を応援するプロジェクト『祭エンジン』を立ち上げました。このプロジェクトは、人の営みで得たものを神社に奉納し、神社から「おかげ」をもらって営みをより豊かにしていくというお祭の本質的なサイクルをテクノロジーや人の想いで促進する取り組みで、全国各地に広がりを見せています。
また、「コスメ利用率100%」を掲げる株式会社モーンガータとは『COLOR Again』という共創事業がスタートしています。捨てられてしまうコスメのアップサイクルによって “色を取り戻す” だけでなく、社会に存在する画一性を求める同調圧力や既成概念、また私たち自身の固定観念から解放し、私たちが本来持っている色を取り戻すことで、自己表現の多様性や人の可能性を信じることができる世界の実現を目指して活動しています。
これらのように、人の想いから創造されたビジョンとビジョンの共創であるからこそ共感が生まれ、取り組みにも業界を越えたステークホルダーの広がりが生まれています。
ブランドマーケティングを企業として取り組むとき、当然ながら、企業が抱くパーパスとそこで働く人の一人ひとりのパーパスは異なるでしょう。そのため、企業として一人ひとりの想いを掛け合わせて価値を創造していくということは非常に難しいことでもあります。
しかし、すぐに結果や成果が出なくても、イノベーションの種や源泉となる一人ひとりの想いを潰さないということが大切です。なぜなら、人の想いがなければ、未来は創造できないからです。どんなに技術が進歩してAIが台頭していったとしても、AIが未来をつくるのではなく、「どういった未来をつくっていきたいか」という人の想いから未来はつくられていくのです。だからこそ、人の想いを貴重なものとして存在させる組織や共同体を目指し、人の想いの共創から未来を創造するイノベーションの種を生み出し続けることが大切なのです。
「あらゆるブランドと人がパーパスによって、未来を創り続けている世界の実現」
このビジョンが実現された未来は、FICCがロールモデルとして語られている未来でありたい。だからこそFICC自身が体現し続けることが大切だと思っています。そしてFICCが出会うブランドや関わる人たちの想いと共創し、より良い未来に向けて共同体の輪を共に広げていく――この想いからぶれることなく、未来を創造し続けていくことこそが、FICCというブランドのブランドマーケティングなのです。
執筆:永田優介