出会う人との「対話」で新たな可能性を創り出す。FICCだからできる形を見つけた愛媛県ワーケーションレポート

いまや一時的なものでなく、定着しつつあるテレワーク。長引くコロナ禍で、テレワーク中心の働き方になった方も多いと思います。そんななか、引き続き注目されているのが「ワーケーション」です。ご存じの方も多いと思いますが、ワーケーションは、ワークとバケーションを組み合わせた造語で、観光庁のWebサイトでは「職場とは異なる場所で余暇を楽しみつつ仕事を行うこと」と説明されています(※)。

2022年8月現在では、旅先でのテレワークから、郊外での研修や会議、出張先での観光まで、企業の業態や業種などそれぞれの立場によってさまざまな形のワーケーションが生まれています。それぞれの職種や参加目的によって、きっと形は異なるでしょうし、今後もさらに多様な意味や意義が含まれていくのではないでしょうか?

2022年7月にFICCのメディア・プロモーション事業部は、愛媛県でワーケーションを実施しました。普段、ブランドマーケティングを生業にしている私たちだからできるワーケーションの形とは?ひとつの正解を見出した今回のワーケーションをレポートとしてご紹介します。

※参考:「新たな旅のスタイル」ワーケーション&ブレジャー(国土交通省 観光庁)

今回ワーケーションに参加した目的

FICCでのワーケーションは、2021年の徳島県を皮切りに今回の愛媛県を含めて4回目の実施となります。最初の徳島県は、一般社団法人 四国の右下観光局が企画するワーケーションに、モニター参加したことがきっかけです。都心に人が集中せず地方でも働き続けられることできっと日本全体が元気になる。以前より「地方創生」に着目していた私たちは、そんな未来を作っていくために必要な行動のひとつだと思っての初実施でした。

今回のワーケーションは、愛媛県出身のメンバーが「企業テレワーク勤務実証実験事業」の存在を知り、チームで活用したいと思ったことから始まりました。「いつか仕事で愛媛県に貢献したい」と思う気持ちから、上長に相談し、参加を決めたと言います。

今回のワーケーションでは、以下の4つの目的を定めています。

1つ目は「普段の仕事環境と異なる場所で、各メンバーがスキルを活用して、業務を遂行できるのかを検証をすること」です。

2つ目は「通常のクライアントワークでは体験できない活動から学びを得ること」です。繰り返しワーケーションを実施するなかで、日常の仕事で体験できないことがたくさんあると気づきました。今まで参加していないメンバーにもワーケーションの可能性を体感してほしいからこそ、今回は京都チーム全員が参加しました。

3つ目は「ビジョンの共感から生まれる共創機会の種と出会うこと」です。私たちは「これからの世界に残したいと思える企業やブランドを応援したい」と考えています。地域の残すべき場所や産業で主体的な活動を行っている方々の「どんな想いで、どんな未来を考えているか?」その強い気持ちに触れられたら、何かきっと共創できる機会が生まれるのではないのか、と。「人の想いからの対話が共創機会をつくる」その可能性を見つけたいと思っていました。

4つ目は「体験を共有することによるチームビルディングを行うこと」です。テレワークを実施して3年目になる弊社。メンバーが集まって一緒に仕事をする機会をつくりたいと考えての参加でした。

当日の行程・取り組み内容

ワーケーションの目的地は、愛媛県の松山空港から車で約30分のところにある「内子町」。江戸時代後期から明治時代にかけて木蝋(もくろう)の生産が盛んだった内子町は、当時の面影を残しつつ、今もそこに住む人々の暮らしが息づいている場所です。

今回、3泊4日にわたって実施された工程と、2チームに別れて行われたフィールドワークについても詳しくお伝えしていきます。

〈1日目〉内子の町並みを散策

松山空港から内子町まで車で移動し、メインの拠点となるコワーキングスペース「南予サイン」に到着。このワーケーションの調整をしてくださった、板垣さん・山口さんのお二人ふたりと合流しました。

板垣さんは「一般社団法人えひめ暮らしネットワーク」の代表理事で、えひめ移住コンシェルジュとして移住者の相談業務だけでなく、地域おこし協力隊の方々をサポートする仕事をされています。南予サインは板垣さんが運営している移住相談窓口を併設したコワーキングスペースで、駅から歩いて10分程と立地の良い場所にあります。ワーケーション中はこの南予サインの家守を務めていらっしゃいます山口さんに、終日メンバーと共にご同行いただきました。

南予サインでの仕事の様子
左:板垣さん、右:山口さん

南予サイン隣の和食屋「りんすけ」で愛媛名物の鯛めしをいただいた後、南予サインに戻ってワーケーション全体の工程を確認。1時間ほど、クライアントワークや事務処理など各々の業務を行いました。ネットワーク環境の問題もなく、サテライトオフィスで仕事をしているような気分で快適に仕事を進めることができました。その後、2日間の宿泊場所としてお世話になる古民家ゲストハウス「内子晴れ」に移動して、経営者の山内さんと合流しました。山内さん自身も10年程前に都心から移住されている方です。

鯛めし
左:内子晴れ、右:山内さん

山内さんに、内子の町並みをご案内いただきながら散策をしました。地元の土で造られた浅黄色の土壁や白漆喰の屋敷など、今ではなかなか見ることのできない貴重な町並みは、約600mにわたり「町並み保存地区」に選定されています。大正時代に創建された芝居小屋「内子座」は今も現役で使用されている印象的な建物は、地域の人々をはじめ、今も多くの人々に愛されています。

内子の町並み

〈2日目〉2チームに分かれてフィールドワーク

この日はフィールドワークのため、小田地区に向かう「林業チーム」と、石畳地区に向かう「栗チーム」の2チームに別れて行動します。

ー小田地区で林業と人の関わりを学ぶ「林業チーム」

小田地区にある森林組合を目指して車で向かい、案内人の株式会社 武田林業の武田さんと合流して、森林組合をご紹介いただきました。

午前中は林業体験で、森林組合の方から山の管理法や使用する重機等についてご説明いただきました。山をドローンで撮影をし、Googleマップにも載っていない林道もデータ化されたりと、DX化が進む林業の現状を知りました。実際に重機で木を切るところも視察させていただき、植林についてもお伺いしました。メンバーの一人は「今まで刈り取られた山肌を見るたびに心を痛めていたが、真逆の気持ちに変わった。切って使って次の50年先を考える。循環させるために、50年100年先を考える林業は自分が持っていない視点だった」と言います。現在の日本は、過去の政策によって植えられた木々に対して手入れが行き届いておらず、間伐や皆伐をして新たな木を植えていかなければならない現状です。日本の7割は森林。森林大国の日本は今よりももっと木を活用していかなければなりません。

ドローン撮影の写真

また、内子町の林業では、木材にならない部分も木質燃料のペレットに加工し、それを使って地域の世帯数以上の電力をカバーできるバイオマス発電を行っているのが特徴です。

午後は、武田さんの工場をご紹介いただきました。レーザーカッターや工具を見せてもらいながら、サウナでおなじみの「ヴィヒタ」を作るワークショップをしていただきました。以前は広告代理店で働かれていた武田さんですが、おじいさんが持っていた山で遊んだことが原体験にあり、山林に役立つ仕事がしたいと思い内子町に移住されたそうです。木だけでなく葉も根も活用した商品開発から、誰もが購入できるようなプロダクト開発をされています。また、前職の知見から林業振興となるイベントの企画・運営も行っています。(参考:クリエイターと地域の関係性を築く提案をした内閣府のプロジェクト

左:武田さん、右:ワークショップの様子

その後、この日のアウトプットをまとめて、林業チームのフィールドワークは終了しました。

ー石畳地区で村の文化を学ぶ「栗チーム」

案内をしていただく株式会社 石畳つなぐプロジェクト 代表の寳泉(ほうせん)さんに会いに、石畳地区にある古い民家を移築して建てられた「石畳の宿」に車で向かいました。石畳地区は、南予の山間部にある人口約260人程の村です。30年ほど前から、昔からの農村風景を残そうと「村並み」保存の活動が盛んで、地元の熱意ある人々が水車の復元やしだれ桜の保護などに取り組んできました。寳泉さんはその中心メンバーの一人ひとりです。

左:石畳の宿、右:寳泉さん

まずは、寳泉さんと一緒に活動を行う栗農家の山田さんにお話を聞きに行きました。石畳の住民の生活を支える生業が必要だと感じ、数年前から地元の栗産業に新しい栽培方法を取り入れて始まった「完熟石畳栗」の栽培。この人生をかけた挑戦で、今では徐々に収量が増えたそう。次は「栗と言えば石畳と言われるブランドをつくっていきたい」と言います。実際の栗を見せてもらいながら、栗農家だけでなく、販促・PRなどの仕事で栗を中心に生業の幅を広げたいという展望をお聞きしました。

左:山田さん、右:完熟石畳栗

そして、石畳に移住して「石畳のパン屋」を営む武藤さんご夫婦の自宅にもお伺いさせていただきました。かつて内子町の主要産業のひとつだった炭焼きの技術を残すため、炭焼き職人になり「菊炭」という茶道用の炭をつくっています。奥さんは、墨には使用できない規格外の薪を使ってパンを焼いています。炭をつくる過程で出来た木酢液(蒸気を冷やして集めた液体)を虫除けとして、近隣の栗農家の木に使用しているそう。地元産業同士が持ちつ持たれつの関係で成り立っていました。石畳の良いところは生業が少ないからこそ、誰もが先駆者となれることです。パン屋の場合は、ただやりたいことをやるだけでなく、生業自体が地域の伝統文化を守ることに繋がる構造になっているため、地域に密着することができたのだと思います。

左:菊炭、右:武藤さん

その後、昔ながらの水車や屋根付き橋がある「石畳清流園」へと移動しました。昭和30年代頃までは使用されていた水車のある風景を取り戻そうと、30年程前に寳泉さんを中心に地域の人が水車小屋を復元しました。この活動が、現在も続く石畳の「村並み保存」の始まりとなっています。水車復元の後につくられた「石畳水車まつり」は、いまや260人の村で170人が運営に参加するイベントになりました。

石畳清流園の水車

その後、近隣の人々が「日参り信仰」として、1日も欠かすことなく旗を掲げ、五穀豊穣と家内安全を祈願するという珍しい風習が残されている「弓削神社」に参拝しました。古い神社ですが、地元の人々によって大切に守られている場所でした。FICCメンバーが立ち上げた日本の祭を応援するプロジェクト「祭エンジン」では、地方の人々に聞いたその土地ならではの文化を紹介をしています。ぜひまた祭エンジンに関わるメンバーで訪れる機会をつくりたいと思います。

弓削神社
完熟石畳栗のおやつ
アウトプット風景

両チーム合流後、ドイツ人シェフが作るドイツ家庭料理店「ツム・シュバルツェン・カイラー」で夕食をいただきました。

ドイツ料理

〈3日目〉学びを成果として自分たちなりのアウトプットを行う

前日に石畳チームを案内してくださった寳泉さんと内子晴れの山内さんも交えて、フィールドワークのアウトプットを南予サインで発表しました。

林業チームは、自分たちが得意とするブランディング領域で武田林業さんにお返しがしたいと伝えます。武田さんが始める家具ブランドに、会社全体のビジョンと繋がるブランドストーリーを考えてプレゼントをする予定です。そして今後、武田さんとのキャッチボールが進めば、共創機会をつくることもできそうです。

石畳チームは、前日に地元の方々にお聞きした話を元に、石畳に今ある資源から課題の解決策のアイデアを一枚の模造紙にまとめてお渡ししました。今後も石畳と関わっていくために、まずは「関わりしろ」のデザインと、継続的に貢献するための丁寧な設計が必要です。今回アウトプットしたものに対して、石畳の人たちが本当に価値と感じてくれたかの評価を聞いた上で行動していきたいと思っています。

発表の様子

発表後は、御祓地区にある閉校した校舎を利用したコミュニティスペース「みそぎの里」へ行くチームと、小田深山渓谷にある武田さんが運営するテントサウナを体験するチームとで分かれ、それぞれ余暇の時間を楽しみました。

左:テントサウナ、右:みそぎの里

2泊3日のチームは、ここで解散。もう一泊するメンバーたちは、若い移住者が多い小田地区へ移動しました。宿泊する「小田・二宮邸」は、築80年の登録有形文化財に登録された古民家宿です。移住者である岡山さんが中心になり二宮邸の運営と、喫茶「どい書店」を経営しています。岡山さんは、大学院で都市計画を勉強しているときに内子町に出会い、足を運ぶなかで町が好きになり移住を決めた方です。

左:小田地区の町並み、右:二宮邸

メンバーの一人は、二宮邸で地元の方と意気投合し、移住者を集めるコミュニティ「内子ヘイジュー!」に参加しました。地方には面白いコミュニティがたくさんあります。場所が違えど、価値観が合うコミュニティ同士だと、片方の課題を片方のコミュニティが解決するかもしれません。コミュニティ同士を掛け合わせて化学反応を起こすことで、行政に頼らなくとも自走ができる、そんな可能性も模索していきたいと思います。

〈4日目〉4日間の最終振り返り発表

最終日は南予サインに戻り、武田林業の武田さんや県の職員の方々も同席のなかで振り返り発表をし、意見や質問が飛び交う活発な場になりました。武田さんからは「今までも企業のワーケーションを受け入れてきたが、FICCとは事前にオンラインでの打ち合わせを重ねてきたので当日の飲み込みが早く、次の機会へとつなげられそうだ」とお言葉をいただきました。ワーケーション前の認識合わせと予習が、当日の理解度を深めるのだと実感しました。これにて、3泊4日のワーケーションは終了となります。

ワーケーションを終えての気づきと成果

ブランドマーケティング視点で内子町から学んだこと

改めて思ったのが、内子町は暮らし方に「美意識」を持っている人が多い町だということです。その美の感覚は訪れた土地によって違いがあり、まったく違う顔を見ることができました。美しく暮らすことが強く浸透しているからこそ、町並み保存や村並み保存の活動につながっているのでしょう。根幹にあるのは「この景色をこれからの世界に残したい」という人の強い想い。その想いから、自分たちの感覚を信じて行動し続けているからこそ、その土地にしかない思想や風景が生まれているのだと思います。意図せずとも、それがブランディングに近いものにつながっていて、すでにブランディングが成されているとも思いました。本当にこだわり抜いて続けることがブランドになる。内子町は、ブランドマーケティングに携わる私たちが学ぶべきものがある地域であり「ブランドとはなんなのか?」を問い直すきっかけをもらうワーケーションでした。今回の1度で終わりではなく、2度3度と内子町へ訪れて関係を継続したいと考えています。今後は、自分たちが持つブランドマーケティングの視点と掛け合わせていくことで、内子町に貢献できるプロジェクトになっていけばと思います。

発表を聞いていた山口さんが書いてくださったグラフィックレコーディング

チームの絆がより深まったワーケーション

また今回、チームビルディングで大きな成果があったと思います。みんなで「同じ釜の飯を食う」体験で、より絆が深まりました。今年リモート入社をしたメンバーは、リアルな場で一緒に仕事をする機会が一度もなかったため、みんなで一緒に何かに取り組む空気感をリアルで肌で感じられたのがとてもよかったと言いました。特に京都チームはリモートワークをベースにする働き方に切り替えていたからこそ、オフィスと異なる場所でテレワークをする機会が重要なものになりました。南予サインをはじめとした各拠点では、気軽に声を掛け合いながらお互いの空気感を感じ、画面越しには得られにくかったものをお互いに受け取ることができたと感じています。それはまたリモートワークに戻ったとしても忘れないものとして、チームをより強くすることにつながると確信しています。

ワーケーションのひとつの理想と展望

私たちのワーケーションは「出会った方々にギフトを残していきたい」という気持ちで参加しているのが一番の特徴です。ワーケーションを通じて自分たちがさまざまな学びや刺激をもらいつつ、出会う人々にとっても同じくらい学びや刺激になればと考え、しっかりと「対話」をすることを重視しています。お互いにストーリーを語り合い、それによってお互いが新たな可能性を見つけ出せるような体験を創るのが、自分たちのワーケーションであると思います。

その土地で出会った人々との対話を通じて見つけ出した資源や人の想いと、自分たちの想いを掛け合わせて価値を生み出す。ブランドマーケティングを生業にしている私たちだからできる提供価値。そんなひとつの正解を見出したのが愛媛県のワーケーションでした。

ワーケーションが手軽にできるこの時代だからこそ、ぜひみなさんしかできないワーケーションの形を模索してみてはいかがでしょうか?

ご協力いただいた愛媛県のみなさん、本当にありがとうございました。

執筆:深澤 枝里子(FICC)

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