去る2023年4月、FICCの代表 森啓子より、全社に向けて期首の挨拶が行われました。ここは組織が今期向かう方向を、メンバーと再認識する場です。存続し続ける企業の特徴や共同体の在り方とはなにか、世の当たり前を問う森のスピーチの一部をご紹介します。
引用される進化論や数字、世の当たり前って本当?
「0.4%ってなんの数字だと思う?」
森から全員に問いかけられたのはこの数字。これは企業が20年存続できる確率です。そして、存続する企業の特徴は「お金儲けが目的ではなく、社会性のあるビジネスの展開を目的としていること」であると言われています。
FICCは、来年2024年の2月で創立20周年を迎えます。
突然ですが、この2つの言葉を知っていますか?
これは、進化論で有名なダーウィンの言葉です。「変化しなければ生き残れない」「多様性が種の存続において重要」と謳う彼の言葉は、ビジネスに応用されて経営哲学のように多くの経営者に語られています。
でも、あくまでこれは、種が存続するための生物の進化の話……。
FICCが大切にする「リベラルアーツ」は、人が自由になる学問として古代ギリシャ・ローマから起源があります。哲学よりも神学が上にあるとされていたその時代から、人が創造する世界を「アート」、神が創造した自然科学・生物の世界を「サイエンス」として考え、体系化された多くの学問が、私たちが生きるこの現代にまで継承されています。
ダーウィンの進化論をビジネスに応用することは、生物(サイエンス)の世界を人(アート)の世界に応用する「応用科学」の考えや行為とも言えます。
でも、そうすることは本当に正しいのでしょうか?
このダーウィンの考えをそのまま受け入れるのであれば、変化できなかった共同体や企業は淘汰されてしまうのが当たり前で、淘汰されるものがあるという前提の上に多様性がある…… 。それは、本当に私たちが願う社会の姿なのでしょうか?
0.4%を「人の想い」から解釈する
一方で、ダーウィンはこんな言葉も残しています。
「生き残り続けるもの、淘汰され散っていくものも、それらすべてが美しいと私は信じたい」と。
人の世界のアートと、生物の世界のサイエンスを考える時、ダーウィン自身の「人の想い」からサイエンスの世界を見つめたことで生まれた美意識なのかもしれません。ロジカルな応用科学ではなく、「人の想い」からサイエンスに出会うこと。
20年存続することができなかった99.6%の企業は、本当にお金儲けが目的だったのでしょうか?きっとそのなかには、社会への想いを持って立ち上がった企業も多くあったはずです。
自分たちは、0.4%に残れたと喜ぶ。私たちはそんな存在にはなりたくない。
FICCは、ひとつでも多くの社会につながる想いをもったブランド、ひとりでも多くの人たちとの関わりによって、そのブランドや人たちが信じる未来、FICCが信じる未来に向かって推進できる存在になりたい。
そして、自分たちの信じるパーパスを体現し続けながら、FICCというブランドがこれからも存在し続けられるようになりたい、そう考えています。
多くのブランドが存在し続けられる未来のために、大切にすべきは人の想いの共創
FICCのビジョンは「あらゆるブランドと人がパーパスによって、未来を創り続けている世界の実現」です。ブランドは人の想いの集合体。だからこそ、ブランドの存続には「人の想い」がブランドの意味となり存続し続けることがなによりも重要です。ブランドマーケティングを専門にしているFICCは、ブランドだけではなく、人(PEOPLE)の想いをこれからも大切にし続けていきます。
FICCが20周年に向けて、そしてこれからの未来に向けて価値創造のコアに掲げるのは、ブランドマーケティングの知識とリベラルアーツの哲学です。持続的に求められるブランドの姿を導き、ブランドが願う未来へと共感する資源に出会い続ける「ビジョンラダー®︎※」と、社会や未来を願う人の想いの共創により新たな価値を創造する「クロスシンク」。どちらも「人の想い」が中心にあります。
社会に対して素晴らしいパーパスを掲げていても、存在しつづけることができない企業やブランドがある。それを変えていきたいとFICCが願うように、私たち自身もそれを体現していく存在でありたいと思っています。
※「ビジョンラダー®」はFICCの登録商標であり、ブランドマーケティングの専門知識によりFICCが開発した、持続的に求められるブランドの姿を導き出すフレームワークです
「想い」が出会うことで、想いからつながる共創になる
「行動すれば誰かと出会うことができるかもしれない。ただ行動すれば良いということではありません。想いを持って行動するからこそ、共感しあう出会いが生まれて広がっていく」と森は言います。
ブランドが願うビジョンが社会そのものである時、それはそのブランドだけが単独で存在している世界ではなくて、想いを持つたくさんのブランドたちの共創によって存在している世界であるはず。だからこそ、共感から互いに資源に出会い続けることが大切です。
そして、それは私たち一人ひとりの想いも同じです。「想いを持った小さな一歩が大切」と言う森は、自身のパーソナルな経験を語りました。
「自分は、高校・大学と海外のリベラルアーツ環境で学ぶ経験を通じて、人生を豊かにしてもらいました。両親には本当に感謝しています。
でも、それは海外のリベラルアーツ環境でなければ体験できないものにはしたくなかった。人生を豊かにしてくれたこの体験を、日本にいても、企業という環境であっても実現していけるようにしたい。前例がなくても、答えがなくても、想いから勇気をもって歩み出す。FICCのリベラルアーツ経営の最初の一歩は、この想いを大切な人たちに伝えたことからでした。
はじめたばかりの頃は『どんな経営?』と、不思議なものとして思われていたと思う。ただ、いまは「信じられるもの」「信じたいもの」として、さまざまな方から企業やビジネスのコミュニティで『リベラルアーツ経営について話をしてほしい』と声をかけていただけるようになりました。
一見、変だと思われるものでもいい。出会う人たちと対話を重ねることで自分の想いが変化していくこともあっていい。人の想いがあるからこそ共感されて、それが信じられる価値として広がっていく」と。
人の想いが中心にあるからこそ、セクターを越えて願う未来へと共創し続けることができる
昨今、セクター(組織や機関)を越えて、資源を持ち寄り共創する「オープンイノベーション」が注目されています。ただそれは、物理的に越境するということだけではなく、人が願う「社会への想い」でつながり共創するからこそ、セクターを超える「動機」が生まれ、社会につながる新たな「問い」を創造することができるはずです。
FICCのパーパスを体現し続けるなかで、セクターを越えた共創プロジェクトや、クライアントとして出会う人たちとの想いの共創から社会に繋がるアクションが生まれています。共創の中心に人の想いを大切にした考えと哲学、「ビジョンラダー®」と「クロスシンク」があるからこそ、共創し続けることができるのだと、日々実感しています。
ブランドやブランドに関わる一人ひとりが、自分たちの意義を実感できるように。ブランドを成長させることに喜びとやりがいを感じることができるように共創する。その喜びと一緒に、ブランドが信じる理想の姿に向かって成長ができる。私たちも関わるブランドや人と共創をすることで、そんな価値提供をしていきたいと、そう考えています。
そして、「共創によるバリュー(価値)にコミットする」こと。共創による資源が価値となる姿や、その価値が広がっている姿まで想像力を働かせること。価値にコミットし続けるからこそ、ブランドの想いと人の想いが信じられるものになる。私たちが信じる共創で、ひとつでも多くのブランドの想い、関わる人の想いが存在し続けられる未来であるように。
そして、0.4%の世界を変えていけるように。
執筆:深澤 枝里子(FICC) / 人物撮影(森):後藤 真一郎