楽しく生きるってなんだろう?同世代のふたりが考えるリアルな「感性」のハナシ

「感性」とは、さまざまなものを見たり聞いたりしたときに感じる心の動きのこと。普段意識せずに使っている言葉だと思いますが、目まぐるしく変わる日常のなかで、自分の心に向き合うのは案外難しいものです。最近では、当たり前のように目にする「多様性」や「自分らしく生きる」のメッセージ。これにモヤッとしている方もいるかもしれません。

そんなときこそ、「感性」です。どんなふうに自分と向き合えば、明日を楽しく生きていけるのか。COLOR Again立ち上げ人の伊藤真愛美と、メンバーとして新たに加わった上野美紅の2人にヒントをもらいます。

「感性」は絶対にみんなにあるもので、迷ったときに立ち返る原点のようなもの

──最近、COLOR Againでは「感性」のことをよく話しているよね。ここで言う感性ってなんだろう?センスとは違うのかな?

伊藤:よく話をするのは、「自分がどう感じるのか」ということ。目の前にあるものや、過去や未来を考えるときでもいいけど、それにどう感じるのか。それが、感情的でも言葉になりきらないものでもいい。それを「感性」と呼んでます。自分自身のフィルター的な。

感性は英語で「sensibility(センシビリティー)」ですが、日本でよく使われている「センス」って、ダサい・イケてる、ある・ない、みたいな文脈が多いけど、それはまったく違うもの。感性がない人はいないんですよ。だれかの指標で決まるのではなく、自分がどう感じるかに向き合って、それを人と共有することで、自分に自信を持てるようになる。日々感じたことの積み重ねが「その人らしさ」を自然とつくるんだと思います。

伊藤真愛美(いとう・まなみ)FICC メディア・プロモーション事業部 プロデューサー:1995年生まれ。FICCには2017年入社。2020年に『COLOR Again』を立ち上げる。

──感性を追求しようと思ったきっかけはあるの?

伊藤:COLOR Againをはじめて2年くらい経ったとき、ふと思ったのは、コスメのアップサイクル活動としての見え方が強くなってしまったということ。一緒に立ち上げた株式会社モーンガータの田中さんと話し合って、本来自分たちが捉えていたことが薄くなってしまって。じゃあ、どうしようとなったときに、自分たちが「はじめたきっかけ」に立ち返ってみたんです。私も(モーンガータ)田中さんも、人の可能性を制約してしまっている世界への違和感や、自分自身の視点を大切にしていたことを思い出しました。

──それって、どんなことだったの?

伊藤:コロナ禍、自分の家を掃除するタイミングで「めっちゃコスメあるじゃん!」ってなって。その受け皿として、なにがあるんだろうかと調べた時に、寄付をしても使われずに捨てられるものもある。いらないコスメをお店に持っていくと、クーポンをもらえて、また新しいコスメを買える。そこに飛びつく人のことを見ていて、この矛盾はなんだろうと。

あるとき、ひできさん(会長の荻野)に「グリーンウォッシュって知ってるか?」と聞かれて。調べたときに、なるほどと。良いことを言っているけど、見かけ止まりでちゃんと本質的なことができていない。消費行動と社会の豊かさをリンクさせたかった。

COLOR Againは、あらゆるモノや人の可能性や多様性を尊重し合える世界を実現するをビジョンに、「自分なりの美を再発見する」プロジェクト。公式サイトはこちら

自分らしくにモヤモヤ。自分が感じることに目を向けることで、環境に左右されにくい

──コスメが好きなんだね。

伊藤:私は究極のめんどくさがり。コスメの色やパッケージを見るのは好きだけど、化粧することはそれほど楽しんでいない。だから、基本すっぴんなんです(笑)。

上野:私は、むしろ化けることが好きだから(笑)。コスメ好きといっても、どこに楽しみを感じているのかは違うんですね。

伊藤:私が化粧をしないで会社へ行くことを、FICCのみんなは別に気にしていない(笑)。でも、きっとそれは一般的じゃない。あるとき、知人の男性から「ちゃんと化粧しなきゃだめだよ〜(笑)」と言われたときに「なんでだろう」と思ったんです。目の前でそういうことが起こったとき、自分が悪いのかなと考えてしまう人もいる。その状態になったときに、自分を見つめていないと、ただ流されて生きることになってしまう。

──だから、自分がどう思うか立ち止まるような「感性」に目を向けることが必要になってくるんだろうね。ちなみに、「自分らしく」というメッセージが世の中にすごく多くなったけど、それについてどう思ってる?

伊藤:それにはすごくモヤモヤ。本来の言葉の意味と現状との矛盾を感じます。例えば、写真館で就活用に写真を撮ったとき、いつも使わないような色のリップを選ばれて、これが正解みたいな。

上野:アイラインは入れないでおこうとか、口紅の色も変わるし、普段のメイクとは違いますよね。

伊藤:ブランドメッセージは、あなたらしくと言っているけど現状の就活メイクが、みんな同じに見えるんですよ。こうじゃなきゃいけない、みたいなことが世の中にはいっぱいあるのに、自分らしさってなんやねんと(笑)。自分らしさと社会の矛盾のなかで板挟みになって「結局どうすれば良いんだろう」と困っている人たちも多いんだろうなと。環境に左右されて生きるのはすごく大変。日々自分が感じることに目を向けると、みんな生きやすくなると思います。

上野美紅(うえの・みく)FICC メディア・プロモーション事業部 コミュニケーションプランナー:1998年生まれ。広告代理店でのクリエイティブプランナー経験を経て、2023年、FICCへの入社とともにCOLOR Againにジョイン。

──なるほどね。例えば90年代の雑誌みたいに、ファッションやメイクのわかりやすい指針があると楽な人もいるのかもしれないよね。自分らしさをうたう今の価値観からはかけ離れているけど。

伊藤:雑誌……ほぼ見ないですね。SNSは息を吸うようにみています(笑)。

上野:結局SNSなんですよね(笑)。Instagram・TikTok・Twitterを巡回してます。

伊藤:なにを見てる?

上野:最近はフォローしている人以外で、おすすめで出てきたものを見るようになってきたかな。実は、そこにはアルゴリズムが隠れていて「あなたこれが好きでしょ?」っていうものを渡されているんですけど、自分がフォローしていないものに出会うことで、今度出かけようや買ってみたいがでてくることもあります。

──なにか発信するとき、だれかに「こう見られたい」っていう願望はあるのかな?

伊藤:うーん、とくにないかな。関心があったり好きだから発信してる。日本にできる韓国の人気カフェみたいに、切って貼られた感じのものには興味がないし、ファッションも人と被りたくない。

ー被りたくないという発想は、他者の目があるからだよね。他者がいるからこそ、自分らしさがあるのかも。

伊藤:たしかに、そうですね。そういえば、他者がいなかったらアイデンティティは生まれないし必要ないと、田中さんが仰っていて。本当にその通りだなと。

自分の感性を言葉にして伝えることで、居心地よく楽しく働くことができる

──「働く」ことを考えると、他者と一緒に働くことが多くなると思うんだけど、そこには自分らしさや感性は必要なのかな?

伊藤:あった方がいいと思う。似たような人たちが集まったら似たようなアウトプットしか出ないじゃないですか。自分にはない他者の感性に出会うことでさらに気づきが生まれ、新たな可能性を創造できると思います。

上野:自分とは違った人がいるのはいいと、もちろん思っている。でも、意識して違う人たちと仕事したいとか、その中に入って違うみんなと自分でいようとかを、わざわざ思っているわけではない。普通にしていたら、みんな自分らしさが出ているはず。

──自分の感性を知ることで、相手に自分の気持ちを伝えやすくなりそうだよね。

伊藤:それはある。働く上で考え方や意見が違うっていうのは当たり前にあること。自分が「こう感じるんだよ」を言葉にして伝えたら、相手は「それってこういうこと?」と聞いてくれるから、意見を擦り合わせることができますよね。私は言語化が得意じゃないけど、この会社には汲み取って言葉にできる人たちがたくさんいる(笑)。

──そこには寄り添う姿勢が必要だよね。

伊藤:そうそう。他者に興味がなかったら、相手を傷つけるのも仕方ないと思っちゃうかも。

──他者のことは見えやすい一方で、自分のことは見えにくかったりもする。2人は、自分がこうでありたいとかこれが好きとかがしっかりあるよね。

上野:私は幼少期の反骨精神がきっかけにあるんです。身体が小さいから、みんなよりスポーツができなくて。子どもって、スポーツできる子が偉いみたいなところがあるじゃないですか(笑)。小さいと、可愛い・小動物みたいなイメージを持たれるんですけど、私はそれが嫌で。周りが勝手に決めてきたイメージと、自分がこうでありたいイメージのギャップがありすぎて。すごく嫌な思いをしてきたので、積極的に「こういうのは好きじゃない」と周りに言ってきました。

高校からは、だれも私のことを知らない自由な校風のある学校を選んだように、自分へのイメージをリセットできて、自分が好きなものを認めてくれそうな環境に、自分で選びにいったんです。その経験は現在も生きている。

──会社選びでも、自分の居心地は大事だった?

上野:そうですね。自分が居心地よかった環境とはなにか、を振り返りながら選びました。自由な校風だったからのびのびできていた高校時代、社会問題について友達とディスカッションできる大学時代。そのときとFICCは似てるなと。

FICCのみんなは「自分はこうしたい」という信念を持っていそう。でも、世界はそんな環境ばかりではなくて、どんなに熱い想いを持っていても伝わらなかったりすることも多いと思います。本質的に通じていないというか「なんかすごいことやっているね」ぐらいで話が終わってしまう。そうじゃなくて、興味を持って「なんでこんなことしているの?」と深掘りできる関係が理想ですよね。

──居心地の良さでなにか意識していることはある?

伊藤:自分が自然体でいられること。化粧をしないのも自分が自然体でいられるから。

──なるほど。自然体でいられることは、COLOR Againでも後押ししようとしているんだよね。

伊藤:そうですね。周りの同調圧力に気づいていても、仕方ないと諦めている人がいると思うんです。うえみー(上野さん)は、中学でなにを歌ったか覚えてる?

上野:合唱コンクールで大地讃頌を歌いましたね。

伊藤:やっぱり!学校だと、大地讃頌を歌うのが定番。いざ、卒業式で歌うとなったときに私は嫌だった(笑)。伝統的に歌う曲だからという理由で、聞いている人に想いが届きにくい歌を歌うのは、大事な卒業式で歌う意味がないなと。

上野:確かに(笑)。

伊藤:歌うならきちんと聞き手も歌い手も意思疎通できるものにしたい。練習時間も楽しいと、関係者みんなが意味ある時間を過ごせるよね。音楽の先生に提案して、当時発売されたばかりの、いきものがかりの『エール』に変更してもらったんです。

上野:すごい!提案してみるもんですね。そっちの方が良いと思っても、どうせ変わらないし聞いてくれないから諦めることって多いかも。

──「楽しい」が軸にある。仕事に対してもそうなのかもね。

伊藤:なるべくつまらない時間を過ごしたくないんです。決められた正解を答えるテストとか、それ自体は楽しいものじゃないですよね。私は歴史人物の暗記が苦手で(笑)。正解に人の感性は必要ないと思っていて。ここ最近考えていたんですけど、「正解がないよね」の空気感は「自分らしさが大切だよね」と同じ匂いがするんですよ。

上野:わかるわかる!正解がないと言いながら「ある」みたいな。決まった幅のなかで、ちょっと変わったことしようっていう。

伊藤:本当に正解がなかったら、わざわざ正解がないって言わない気がするんですよ。正解がないって言ってるのに、自分が表現したことに対して、「いや、そうじゃない」って言われた瞬間、「いや、あるんじゃん」みたいな(笑)。

最近、メンズメイクも増えてきてるじゃないですか。実際に新卒社員が化粧して会社にきたときに、ここまでは良いけど、ここまではちょっと……みたいな会社の暗黙のルールがあったり。

建前が社会にはたくさんある。就活のときに「自由な服装で」と言われても、相手にいい印象を与えられる服装で行かないと、自分の印象が悪くなってしまう。「自分らしくや正解はない」というのは、建前にしか見えない。

上野:本当に自分らしいとか正解がないってどういう状態かがまだわかってないんじゃないのかな。わかっていたらわざわざ言うことじゃないと思うんです。

伊藤:こう書けば正解というのがなんとなくあるから、同じ意見やアウトプットに偏りがちになる。どう感じるかがわからない人が、本当にそれで幸せなら良いんです。でも、それで幸せじゃなければ、どうにかしてあげたい。

自分の感性をみんなが大切にできるように。人の可能性をひろげていきたい

──今後どうしていきたい?

伊藤:人に向き合う人たちと一緒に、人の可能性をひろげる活動をしていきたいし、感性や自信を育んでいける場を作っていきたい。でも、「場」を持ちたいわけではないんです。場があると来たい人しか来なくなってしまう。こっちから「お邪魔しまーす」みたいに、土足で上がっていかないと。そうしないと変わらない。

上野:お邪魔します、いいですね(笑)。COLOR Againは、最初はアップサイクル活動の印象があっても、実際に関わってみると、もっと精神的なところでちゃんとアプローチしている。

余ったコスメをなんとかしたいから商品をつくるような広く浅い活動ではなくて、だれかひとりでもしがらみから開放できるような活動ができた方が嬉しいなと思います。

伊藤:COLOR Againのイベント参加をきっかけに、コミュニティを立ち上げた参加者もいた。「こっちの方が楽しい」や「こっちの方が生きている感じがする」と思える方向に、少しでも導いていけたらいいなと思っています。活動は広げていきたいし求められるようになっていきたい。教育機関の方々もすごく興味を持っていてくれているし、アカデミックな場に需要があると思う。

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感性を、「選択肢や捉え方を想像すること」と考えると、ただアートやクリエイティブな人たちだけに必要なのではなく、だれしもが持っているものです。それをもっと大切にできる豊かな世界になっていくといいな。

インタビュー・執筆:深澤枝里子 / 撮影:後藤真一郎

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