コロナの流行や気候変動、テクノロジーの急速な進歩など、現代は予測不可能な時代だと言われており、幸せの価値観が大きく転換しています。人々の安全な暮らしを実現するために社会問題や環境問題へ取り組む企業が増える中、企業によるサステナブルマーケティングは果たして本当に生活者のウェルビーイングに貢献できているのでしょうか?
今年で16回目を迎える「アドテック東京2024」では昨年に続き、ウェルビーイングをテーマとしたセッションにメディア、マーケティング、新規事業、アクティベーションプランニングなど各分野で活躍する登壇者の方々と、FICC代表の森がモデレーターのもと、対談を行いました。
今年のアドテックのテーマである「Challenging Uncertainty & Complexity(不確実性と複雑性への挑戦)」に対して、近年複雑化する社会問題は企業のマーケティングやブランドアクションにどんな影響を与えているのか。そして、メディアと企業、生活者と共創していくことができるのかについて語り合いました。
サステナビリティとウェルビーイングがトレードオフになる?さまざまな「ジレンマ」を乗り越えるために
森:今日はSDGsやサステナビリティマーケティングに対して関心がある多くの方々にお集まりいただいた中で、「企業やメディアはどのように生活者と共創していくことができるのか?」ということについて、活躍されているフィールドが異なる登壇者の方々にお話を聞きながら探っていきたいと思います。まずは、私から「サステナビリティやウェルビーイングが今の時代にどんな意味を持っているのか」についてお話をさせていただき、登壇者の方々との対話に入っていければと思います。
みなさまご存知のSDGsは、国連が2015年9月に採択した持続可能な開発目標で、ゴールである2030年までに達成すべき具体的な17の目標が定められています。その背景には、SDGsの前文にもあるように、あらゆる貧困をなくし、地球を守り、そして誰一人取り残さないことを目指しています。
2030年の目標達成に向けて、経済・社会・環境の3つのバランスを保ちながら持続可能な開発を実現していくためにも、昨今、国際社会で注目されているのが「Beyond GDP」という考えです。
これまでは国内の経済成長率であるGDPが国の豊かさとして考えられてきましたが、GDPを成長させる要因となるものが、サステナビリティと相反するものも多い一方、Beyond GDPは、私たちが実感する豊かさや幸せの指標である”ウェルビーイング” まで国の豊かさとして捉えることができ、国際社会共通の枠組みとして、これから本格的に動いていくと言われています。
Beyond GDPは、目指すべき”アウトカム”と、実現のための”プロセス”の二つで構成されます。そのアウトカムは3つあり、まず自律的な意思決定によって自由な社会参加が可能である「ウェルビーイングと主体性」。これは現在のウェルビーイングと解釈されています。次に「生命と地球の尊重」は将来のウェルビーイング。そして「格差の縮小と連帯の強化」はウェルビーイングの分配という考えで、すべてにおいてウェルビーイングが主体となっています。
SDGsからBeyond GDPに向かっていく一方で、実は国連の世界幸福度調査では、ジレンマも報告されています。特に環境問題の改善が、主観的幸福度(SWBー”Subjective Well-being”)とトレードオフになってしまうという研究結果が出ており、先進国では消費と生産によって発生する廃棄物の量が多くなるとに幸福度も高まるという相関関係が調査結果で出ているんです。
2030年のSDGsの目標達成、さらにその先のBeyond GDPに向けて、どうやってそのジレンマを乗り越えていけるのかが、大きな課題となっています。なので、今日は、サステナビリティとその先のウェルビーイングが中心となっている社会・環境・そして経済を実現していくために、メディア、ブランド、生活者とがどのように共創・協働していくことができるのか一緒に考えていきたい。まずはメディアの観点から、CNNの長屋さんにお話を伺いたいと思います。
長屋:CNNは1980年に世界で初めて24時間ニュース放送を開始した報道局なんですけど、私たちはニュースには2つの役目があると思っていて。まずひとつ目は世の動きを生活者に伝えること。そして、もうひとつは発信された情報がきっかけとなって、視聴者の意識が変わり、ウェルビーイングにつながっていくことです。
ただ現在は戦争や災害などのニュースが続いていることもあってか、世間ではポジティブなニュースへの需要が高まっています。そんな中でも私たちは暗いニュースに蓋をするのは違うと思っているので、積極的に世界が直面する問題を取り上げるようにしています。その例として、今年で活動13年目となる人身売買や児童労働問題に光を当てて、知っているようで知らないようなことを深堀りする「フリーダムプロジェクト」では、世界100カ国以上の学生が主体となってレポートし、若い人たちを巻き込んで発信していくきっかけをメディアとして作っています。
他にも、気候変動とその解決策を考える「Call to Earth Day」なども制作しており、これらもまた、SNSを通じて若い人たちとつながることで大きな広がりを見せています。どちらもハードニュースなのでスポンサーをつけることは正直難しいんですけど、私たちは国際ニュースメディアとしての影響力がある中で、視聴者が行動するきっかけをつくるためにも使命感を持って行っています。
悲しいニュースに触れただけでは主観的幸福度は下がっていくんですけど、視聴者がメディアを通して社会の一員として行動することで、ウェルビーイングの実現につなげることができるので、メディアはそういった点も踏まえて発信していくべきだと思っています。この活動がきっかけで行動が変わり、その先にウェルビーイングが「人類の幸せ」という意味としてあがってくるところまでを考え、メディアとして発信しなければならないんですよね。
森:近年はコロナ禍や世界の紛争もあり、多くの人が精神的なストレスを抱えていると思います。そんな中、視聴者はポジティブなニュースに触れたいけど、メディアは社会問題を取り上げなくてはいけないミッションがある。まさにメディアと生活者の間でのジレンマですよね。
長屋:そうなんです。また、企業も「流行っているから」という理由だけでサステナビリティという言葉を使うと、生活者に見透かされてしまうこともあります。機能面だけで売れていた時代のようではなく、生活者の人たちもとても厳しい目で見ているので、それこそ「サステナビリティ」という言葉だけを使っていると、生活者の価値観や感覚とずれてしまうことがあるんです。なので、メディアとしてはオーディエンスの価値観が変化していることまでを包括的に捉え、コミュニケーションを発信していくことが大切だと思います。
SDGsウォッシュを防ぐために必要な視点とは?
森:ここまで話したように、さまざまなジレンマがある中で、いかにそれらを乗り越えて市場を創っていくか。今日は大きな2つの時間軸で、登壇者の方々とお話していきたいです。まず1つ目の時間軸は、2030年のSDGs目標達成に向けての「サステナビリティマーケティング」。そして2つ目は、その先のBeyond GDPに向けて、生活者への本質的な価値のベクトルをウェルビーイングへ向けていくこと。まず「サステナビリティマーケティング」について博報堂プロダクツの押本さんにお伺いしたいと思います。
押本:弊社では、企業でのサステナビリティに関する調査やコミュニケーション施策の提案を行っているんですけど、実際に多くの企業が直近3年間でSDGsに関する予算を増やしている中で、ステークホルダーが多岐に渡るのでコミュニケーション施策がバラバラになりがちだったり、人材獲得の課題、また生活者を巻き込んだアクションにつなげられなかったりと色々なお悩みが寄せられています。そんな中、特に注目されているのが「SDGsウォッシュへの配慮」です。
SDGsウォッシュとは実態が伴っていないのにSDGsに取り組んでいるかのよう見せかけてしまうことを指すのですが、これが生活者に広がると、広告の差し止めや不買運動につながるリスクもあり対策が急務となっています。企業がSDGsウォッシュを起こさないためにも、博報堂DYグループの専門家と外部の有識者と一緒に作成したコミュニケーションガイドの中から、5つの視点を紹介していきますね。
まずは「一貫性」です。これは単にスローガンだけを発信していくのではなく、パーパスとアクションに矛盾がないことをバリューチェーン全体で確認して見ていこうという視点です。これまでは企業と生活者のコミュニケーションって対象商品への理解があれば成立したと思うんですけど、今は企業の姿勢やバリューチェーン全体にも視野を広げる必要があって。そんな中、企業のパーパスとアクションの一貫性については白黒つけにくい部分がありますが、メディアではどのような工夫がされているのか長屋さんにお聞きしたいです。
長屋:CNNでは2020年から英国の広告業界で行われている温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「アド・ネットゼロ」を取り入れて、制作期間の出張や飛行機に乗る回数から排出されるCO2を細かく計算し、オフセットしています。この活動は英国から始まったんですけど、既にアメリカでも浸透していて。やっぱりメディアってサステナビリティをサポートする立場でもあるので自分たちができることは率先してやっていますね。
押本:弊社も総合制作事業会社なので広告制作の中で排出されるCO2の可視化に着手しています。イベント領域ではCO2の計測がすごく難しいんですが、誰でも簡単にCO2の計測や削減ができる取り組みを行っています。やっぱり私たちもコンテンツなどのアウトプットの表現や質だけではなく、プロセス全体を通してしっかりと環境や人権の問題に取り組むことでバリューチェーンの姿勢が反映されると思っています。
藤本:たしかに、温室効果ガス排出量の問題って可視化されやすいんですけど、その他のデータは全然可視化されていなくて。それに国内企業の場合「うちは世の中に対してこういったことをやっています」といってもデータの裏付けがなかったり、データの裏付けを表明していなかったりすることが多くて。僕はそこは大きく変わっていかなければならないと思っています。
また、日本企業ではよく「お客様は神様です」と言いながら、神棚の上に祭り上げて実は向き合いきれていなかったり、本音と建前がすごくあって。社員に対しても「心からあなたの企業のパーパスを信じれますか?」と聞くと、自信を持って「はい」といえる人は少ないのではないでしょうか。だからこそ僕は企業が一貫性を打ち出す時には「社内の一貫性」も必要だと思っていて、マーケターは社内のマーケティングも徹底的にやった方がいいんですよね。
森下:その観点はとても大切ですよね。それこそ外だけに伝えていても、企業の中が変わらないと一貫性が全くないことに。なので、僕も日頃から消費者の観点を忘れずにブランドのマーケターとして活動するようにしています。
森:サステナビリティマーケティングにおけるブランド活動の一貫性は、まず社内に伝わり、社内から行動していかなければ実現されることはないという大切な観点をいただきました。SDGsウォッシュを防ぐための残りの視点も教えていただけますか?
押本:シナジーとトレードオフの関連をしっかりと理解する「関連性」と、先程ディススカッションでもあがっていた可視化にもつながってくるのが、きちんとした論拠をもって伝えていく「実証性」、不都合な内容も含めて開示していく「透明性」があります。そして、私たちが最も重要だと思っているのが「参画性」です。SDGsという地球規模の課題を解決していく上で、ひとつの企業にできることは限られているので、地方自治体やNGOなどと連携したり企業同士が協力し、インパクトを創出していくことが重要視されています。
森:参画性の中では企業を取り巻くステークホルダー(利害関係者)との関係性が大きいと思いますが、先ほど、社員というステークホルダーの話もありましたが、特にどのステークホルダーをここで見ていくことが重要だと思いますか?
押本:マルチステークホルダーへの意識ですね。どのステークホルダーを重視するのかは企業によって違いがあると思うんですけど、参画性を考えた時にやはり生活者の存在なしでは語れません。国内でも少しずつ環境や社会のためにアクションを起こそうとする人たちの割合が増えている中で、実は特に10代の約半数が「エコ疲れ」を感じていて。無理して頑張っている、強制されていると感じる、理想と行動とのギャップを感じての罪悪感などです。そのため、サステナブルマーケティングを扱う上では伝え方の部分を工夫していかないと、逆に生活者の気持ちが離れていく可能性もあるんです。
ブランドパーパスに基づいて、ウェルビーイングの取り組みを実践するためのヒント
森:ここからは生活者への本質的な価値の追求、そのベクトルをウェルビーイングにどう向けていくことができるのかについて見ていきたいです。ぜひ、ここからハイネケンさんの活動について森下さんにお伺いしたいと思います。
森下:ハイネケンは1873年にオランダで生まれ、現在は世界190カ国以上で販売されているビールなんですけど、実は創業当時から同じ製法で、味は変わっていないんです。また瓶のイメージが強いと思うのですが、創業当時から世界各国に美味しい品質のビールを届けるために、最適なパッケージである瓶で販売しています。そして、ハイネケンのロゴの「e」を少し傾けると笑っているように見えませんか? 私たちはこれを「スマイルe」と呼んでいて、このブランドコミニュケーションの根幹には「我々が売っているのはビールではなく、楽しい時間である」という三代目CEOの考えがあります。
我々の商品や想いはずっと変わりませんが、ただ時代は変化していくのでその時代に合った気持ちが前向きになる広告を打ち出していて。例えば、世界中でジェンダーバイアスが議論された時は「男性もスイートなカクテルを飲んでいいんじゃない?」と提案したり、コロナ明けにはワークライフバランス向上のためにビールボトルが開いたらPCが強制終了したりするコミニュケーションを発表しました。
他にも、今年デジタル疲れの方に向けて、電話やカメラなど基本的なアプリしか入っていない『The Boring Phone(退屈な携帯電話)』を発売しました。これは限定5,000台のみの販売だったんですけど、発表直後から大きな反響を呼びました。
また、ポジティブな選択肢としてのノンアルコールビールという在り方やスタイルを、ハイネケンだからこそ創造することができる市場として提案していて。現在、ハイネケンでは年間の広告費の10%を飲酒運転防止を啓発する広告にあてることが本社で決まっていて、飲酒運転根絶の取り組みと共にノンアルコールの提案も行っています。
長屋:実は、森下さんから前段でお話されていたハイネケンさんの活動を聞いた時、お酒が飲まれないとビジネスにならない中で、健康だったりウェルビーイングに対して相反する状態になってしまわないのかと聞いた際、この啓蒙活動について教えていただいて。広告費の10%を啓蒙活動にあてるのってとてもすごい決断ですよね。この活動って生活者に「ビールを買わない判断」を与えることにもなりかねないと思うんですけど、ここまでやることで生活者と企業の信頼関係を築き上げることができるんだと思います。
森:これも、ハイネケンさんの「我々が売っているのはビールではなく、楽しい時間である」ということが根幹にあるからこその活動ですよね。
森下: まさに。生活者の方々が、私たちの商品によって、楽しい時間と相反する状況に陥ってしまうのは望んでいることではないので。
森: 商品は変えずして、時代の流れの中でターゲットの価値観の変化を捉えながら、ウェルビーイングにつながる体験価値を提供し続けてこられたハイネケンさんのお話を聞かせていただきましたが、ここからは、サービスやビジネスモデル自体をウェルビーイングへと変化されている、住友生命さんのお話をぜひ藤本さんからお伺いしたいと思います。
藤本:最近よく話しているのは、全ての企業がウェルビーイング産業になるということで、「ウェルビーイング・トランスフォーメーション」がこれからキーワードになると思っています。自社の事業を「顧客」から「生活者」にまで捉え直すと、事業の姿がウェルビーイングにまで広がっていくんです。例えば病院のお客さんを患者さんと捉えると、病院内の治療のみが事業になるけれど、お客さんが生活者と捉えると、病院に来る前の予防や治療の予後の改善など事業の可能性が広がっていき、生活者全体をウェルビーイングにするサービスに変わっていくことができる。
この考えはとても大事で、生命保険の役割って「生老病死への備え」と言われていますが、元々日本で初めて生命保険を紹介した福沢諭吉は「生涯請合」という言葉を使っていて。そこで僕らも、生活者の一生涯を請け合うサービスに進化しないといけないという思いからできた生命保険が「Vitality」です。
これはリスクに備えるだけでなく、病気リスクを減らすための健康プログラムを提供する保険なんですけど、例えば保険者が健康診断に行ったり、1日12,000歩歩いたりするとポイントが貯まる仕組みになっていて、結果次第で翌年以降の保険料が安くなったり高くなったりと変化していくんです。
ちなみに、これは行動経済学を活用していて、人間は一度得た利益を失う状況に痛みを感じるという「損失回避の法則」という考えがあり、それを取り入れています。そのため生活者は保険料が上がらないよう「運動を続けよう!」となり、健康意識が高まっていくんです。実際に、Vitalityを利用した方は「健康を意識するようになった」など生活の質が高まったと答える人が多いんですよ。
ただ、これだけでは不十分で、生涯請け合いにはなっていないと思っていて。そのために、人の一生をささえるウェルビーイングのサービス、生涯請け合いになるために「WaaS(Well-being as a Serivce)」のエコシステムを今作ろうとしていて。健康で幸せな人だけでなく、病気になっても幸せであれるよう、齢を重ねても幸せであれるようになるサービスをオープンイノベーションで作っています。この仕事はマーケターこそ力を発揮できると思うんですよね。
押本:この仕組みは素晴らしいですね。マーケターが新規事業を立ち上げていくことが次の新しい市場をつくっていく流れそのものだと思うんですけど、業界も仕事内容も違う人たちとどのようにしてウェルビーイングの概念を共有しているのでしょうか?
藤本:新規事業を作る時は最初に、生活者のニーズを探ります。N1で「あなたが本当に欲しいものはなんですか?」ということを探り、そこに対するPSF(プロブレムソリューションフィット)の解決策を作っていきます。これができたら次はその解決策がPMF(プロダクトソリューションフィット)マーケットで本当に受け入れられるか、マーケットはあるかを確認し、いけると思ったら一気に投資してグロースさせていく。これは本当に大変なことなんですけど、まさに本来のマーケターの仕事そのものだと僕は思っていて、マーケターこそ新規事業開発を担うべきだと思っています。
森: なるほど。実際にマーケターこそが新規事業を立ち上げて新しい市場を作っていく人だと思うんですけど、ウェルビーイングという大きなマクロな流れの中で、藤本さんは市場に向かっていく際、どうやって競合優位性や自社の独自性を作っているのでしょうか?
藤本:自社の独自性はなくてもいいと思っています。例えば、住友生命だけがウェルビーイング産業になるのではなく、色々な企業が一緒にウェルビーイングを共創する場所をつくり、その中で自分たちの役割を活かすことができたらいいのではないでしょうか。ちなみに、僕が先ほど出した図で真ん中に住友生命を置くと、いつも社長に「自社ではなく、人を中心に置いて考えろ」って怒られるんですよね(笑)。そんな風にこれからは企業ではなく、人を中心に考えていくことも大切だと思っています。
今行っていることが、今だけでなく将来のウェルビーイングにつながっていく
森下:今日は色んな議論が飛び交ったんですけど、明日からすぐ実践できることってそんなに多くないと思うんです。だけど、ご自身の事業に必ず何かしらの魅力や強みの資源があるので、それをどうデザインし、ウェルビーイングにつなげていくのか。その思考のプロセスが大事なんだと思います。
長屋:私は「人類を幸せにするために自分のブランドで何ができるのか?」ということを逆算して考えると、自然にブランドにも世の中にもいい循環ができていくのかなと思っています。マーケティングの考え方も、モノをつくって売るというマーケティングのプロセスから、みんなで価値を創造していくという考えに変わってきているので、そこに信念を置いてやれば必ずいいものは生まれると信じています。
藤本:僕から伝えたいのは、今までマーケターはWell-Sayingだったと思います。「このブランドのいいところを宣伝しなさい」っていうように。それが、商品そのものの訴求ではなく、世の中にいいものを伝えていくようなハイネケンさんの事例や僕らの新規事業だったり、Well-Doingになっていく。これから先、広告や宣伝をしなくても「この企業ってこういうのだよね!」っていう企業のWell-Being、あり方そのものが、生活者と結ばれていく。そういったことを実現していくのがマーケターの役割になっていくのではないかと思います。
押本:私は今日の対談で、自社の強みを活かせる領域において、アウターもインナーも問わずポジティブに「関わりたい!」と感じてもらえる活動をしていくのがポイントだなと思いました。現在、私の部署でもサステナビリティに関するさまざまな取り組みを始めて、試行錯誤中なんですが、複雑さへの挑戦という点ではクリエイティビティの発揮しどころだと思っていて。例えば「弊社ではCO2を何万トンも減らしました」ではなく「削減率◯%オフ」とコミュニケーションするなど、伝え方ひとつでその後のアクションが変わってきます。例え1つのキャンペーンであっても、小さなアクションから始めていけたらいいですね。
森:最後に私からもお話しさせていただきたいと思います。毎年年始の全社会で、世界や日本で起こった一年間の出来事を振り返るスピーチを行っていて、マクロ環境を理解した上で自分たちブランド、FICCは何をやっていくべきなのか、それを全員で考える機会をつくっています。私たちの今の風景が10年後や50年後のブランドに関わる人が見た時にどんな風に映っていくのか。
私たちの今行っていることが、未来にブランドに関わる人たちのコンテキストにもなっていく。私たちは現在のウェルビーイングだけを行っているのではなく、今のアクション自体が将来のウェルビーイングでもあるということを大切にしていきたいと思います。
執筆・撮影:吉野 舞 / 撮影:アドテック事務局