
FICCで毎年年始に行われる、代表・森啓子によるスピーチ。
ブランドや人の想いに向き合い、社会につながる価値創造を支援する私たちは、世界の動きやこれからの未来予測に向き合う時間を大切にしています。ただ情報として理解するのではなく、起きている事柄に対して、一人ひとりが再解釈し、どのような問いを立てていくか。その姿勢がブランドの可能性を広げ、導く力になると信じて、毎年全社員が集まり、この時間を設けています。
社会の中の「会社」という共同体として、自分たちが集う意義を見つめ、どのような価値を社会に対して生み出していけるのか。そんな想いを込めてFICCメンバーに向けて発信された、森の年始スピーチをご紹介します。
目次
- 2024年:異常気象、偽情報、社会の二極化
- 気候変動対策、その中での日本、民間企業の役割とは?
- 人と自然環境との新たな関係性の構築に向けて
- 自然環境との“関係の質”を測る、新たなフレーム
- 全ての企業に機会がある:未来に向けた私たちの役割
2024年:異常気象、偽情報、社会の二極化
二極化が進む世界と、今後のグローバルリスク

2024年はどのような一年だったでしょうか。
ちょうど一年前の年始にも、2023年を振り返り、2024年に向けてメッセージを発信しました。
昨年のスピーチで紹介した、2023年を代表する言葉は “Authentic”(「真の」「本物の」「正真正銘の」)でした。2024年を代表する言葉として、アメリカの辞書出版大手メリアム・ウェブスターが発表したのは “Polarization”。アメリカ大統領選挙によって引き起こされた分極化(二極化)や世界情勢を反映し、「全く正反対の極に分裂している状態。同じ意見や信条、興味を持つグループや交流のある人同士が、グラデーションなく集中し、極端で過激になりやすい状態」という意味の言葉が選ばれました。
選挙期間中には、AIが生成した偽コンテンツが溢れ、社会の分断が進む中で、何が本物であるかについて社会全体で捉えることが難しい状況でした。まさに、2023年を現す言葉 “Authentic” と、2024年を現す言葉 “Polarization” がつながりを持ったメッセージであることが読み取れます。

「信頼の再構築」というテーマだった2024年の世界経済フォーラム。同フォーラムが発表した「グローバルリスク報告書」では、現在世界が直面している最大のリスクとして「異常気象」「偽情報」「社会の二極化」を挙げています。今後2年間のグローバルリスクとしては「誤報と偽情報」が「異常気象」を抜いてトップとなっています。
偽情報やAI技術がもたらす影響への対策として、2024年、欧州(EU)では「EU AI規制法」が発効されました。この規制は、2030年末までに段階的に施行される予定であり、「ブリュッセル効果※」として世界に影響を広げる枠組みとなることが予測されています。
※ EUの規制が、EU域外の国々や企業に影響を与え、これらの国々や企業がEUの規制を自主的に遵守する現象を指します。

AI規制法の注目すべきは、リスクを4段階に分類し、許容できないリスクはハードロー(強制力のある法律)で禁止し、それ以外は情報開示の義務や任意の行動規範を定めるソフトロー(柔軟な規制)を導入している点です。また、規制の大枠を法律で定める一方、詳細は企業や業界にゆだねる「共同規制」の手法を採用しています。このアプローチは、世界や日本にも広がっていくことが予想されます。
公的機関と民間とが協働して市場を創造していくからこそ、「共同規制」の考えを持って「倫理観」や「透明性」を評価し、改善し続けていくことが大切だと言われています。
一人ひとりの投票が、今後の世界秩序と気候変動を左右する

2024年は “選挙イヤー” でもありました。1月の台湾での総統選に始まり、インドネシア、ロシア、インド、メキシコ、EU、イギリス、日本、そしてアメリカ…と、世界各地で選挙が行われ、約37億人に投票の機会があったとされています。これは、世界人口の半数に近い数字です。
そのうちのアメリカ、インド、インドネシア、ロシア、EUは、世界人口の3分の1を占め、これらの地域からの人為起源の炭素排出量も世界全体の大部分を占めています。つまり、これら地域の選挙結果が、今後の気候変動対策の方向性を大きく左右するということです。
結果としては「グローバリズム批判」「新自由主義的イデオロギー批判」「反移民」といったスローガンを掲げる政治勢力が、得票を増やす傾向が見られました。イギリス『エコノミスト』誌編集長のトム・ソンダージは、有権者が選挙を通じて変化を求めているものの、その結果として世界秩序が悪化する可能性を指摘※しています。
トランプ政権が誕生したアメリカや中国が国内政策に対してより多くの政治的資源を投入する中で、日本を含めG7の国々が連携を深める必要性が高まっています。「自由で開かれた国際秩序」の安定化に貢献することが、今後の重要な課題であり機会であると言われています。
※ 2025年を展望する『ザ・ワールド・アヘッド2025』特集号にて
気候変動と難民は別々の問題ではない

選挙の争点に挙がる「気候変動問題」と「難民問題」は、SDGs(持続可能な開発目標)のゴールでもありますが、別々の問題ではありません。気候変動と紛争によって国を追われた難民が、移住先での仕事や生活基盤を確保していった結果、その国での社会的な摩擦が起きてしまう…。「反グローバリゼーション」や「反移民」といった政策と「気候変動問題」は、本来つながりを持って捉えていくことが必要だということです。
2024年、パリ協定で定められた世界平均気温の上昇目標「1.5℃」の範囲を突破してしまいました。温室効果ガス排出量の状況は各国で異なりますが、高度経済成長から排出してきた日本含め、依然として世界全体で解決していかなければならない課題です。
気候変動によって引き起こされる熱波、記録的豪雨、ハリケーンなどの自然災害も、2024年は世界各地で多発しました。日本国内でも能登半島豪雨をはじめ、海洋温暖化により未曽有の豪雨が相次いでいます。日本は地理的にも気候変動の影響を受けやすい国ということを忘れず、「災害大国」であるからこそ、気候変動問題をはじめ、つながりを持つ社会課題に対して無関心になるのではなく、それぞれが考えを持って行動することが大切だと思います。
気候変動対策、その中での日本、民間企業の役割とは?
COP29が拓く未来:国際的な資金協力と炭素削減に向けた新たな展望

毎年の年始スピーチで紹介している、気候変動に関する国際会議COP(国連気候変動枠組条約 締約国会議)。
2024年、アゼルバイジャンで開催されたCOP29の最大の焦点は「途上国向け資金支援に関する新たな目標の設定」でした。2035年までに年間3,000億ドルに増やす目標で合意しましたが、途上国が2030年までに必要とする額は年間1.3兆米ドル規模。この大きなギャップに対して、途上国からは先進国に公的資金の拡大を求める一方で、先進国は官民問わず多様な資金源を活用すべきと主張するなど、途上国と先進国の間で対立が生まれています。
さらに、COP29では「パリ協定第6条(市場メカニズム)」の詳細ルールが合意され、完全運用化が決定しました。これにより、国や企業が協力し、削減した排出量を他国に「移転」できる「市場メカニズム」の仕組みが整いました。日本が独自に推進している「二国間クレジット制度(JCM)」も、今回の合意により認められ、広がりが期待されています※1。
こうしたJCMを通じた日本の知識と技術の海外展開の可能性がある一方で、日本の取り組みは私たちには点にしか見えず、数値目標※2は存在するものの、全体的なビジョンが見えない。2023年の年始スピーチでも紹介した、COP27で気候災害対策として日本政府が発信した「早期警報システム」も、COP29の日本パビリオンで再度発信されましたが、「なぜそれを行うのか?」というビジョンが不足しています。災害大国であり復興大国である日本だからこそ生まれたものであり、共感を生む意義ある取り組みにもかかわらず、そのストーリーが見えてこないことが機会損失だと感じます。企業の参画も点にとどまり、中小企業を含む民間企業全体を巻き込む力が弱く、どこか遠くで行われている活動のようになってしまっている…。
※1 JCMとは、パートナー国への脱炭素技術の普及を通じて、温室効果ガス排出削減・吸収や持続可能な発展に貢献し、その貢献分をクレジットとして日本が獲得し、双方の排出削減目標に活用する仕組みです。日本企業が海外展開する工場やリテール施設などが排出削減や吸収に取り組む際、日本政府がコンサル支援します。JCMの枠組みの中で活用できる、“方法論” と “民間企業の技術” を資源に、日本の知識と技術の海外展開を目指しています。
※2 2030年までの累積で1億t-CO2程度の国際的な排出削減・吸収量

COPで議論されている途上国向けの資金支援と同じように、国内自治体の取り組みでも、公的資金の限界から民間企業の参画を促す動きが加速しています。民間企業が参画する際に、短期的視点にとどまらず、長期的な視点を持って参画することができるかどうか。そのためには、ビジョンとストーリーが伝わり、さらに従来の経済価値重視のビジネスモデルを変革していくことが重要です。ただし、このビジネスモデルの変革は容易なことではなく、中長期的な視点を持った経営やビジネスを行うことが求められるため、政府は民間企業に参画を求めるだけでなく、金融機関を含めたビジネス支援や評価指標を見直し、包括的に取り組んでいく必要があります。
まさにFICCが企業を支援することは、この問題に対して企業と共にボトムアップで取り組んでいくことができる機会でもあります。企業のパーパスや可能性に対して、こうしたマクロの動きを把握し、議論の場にあげること、そして情報をそのまま受け入れるのではなく、関わる人たちと共に「問い」を立てる姿勢を大切にしていきたい。
人と自然環境との新たな関係性の構築に向けて
COP30:アマゾン熱帯雨林の先住民族の知恵

そして次のCOP30は、2025年11月にブラジルのベレンにて開催されます。途上国向け資金支援の議論に加え、ブラジルの気候変動対策にも注目が集まることが予想されます。ルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領は、2023年の就任直後に従来の環境省から「環境・気候変動省」に名称を変更。大臣には環境相としての実績を持つマリナ・シルバ氏を抜擢し、アマゾン熱帯雨林の消失を大幅に抑え、これまで放置されていた環境政策を立て直しました。
その取り組みはとても興味深く、「整合性の高い資金調達」と「先住民族や地域コミュニティの知識と権利の深い尊重」、そして「データとアカウンタビリティ」の3つを組み合わたものでした。国連から今後の気候変動対策を先導するモデルとしても報告されています。
その地域に長く関わる人々が伝える大切な知恵と、その人たちの存在や権利に深い敬意を示しながら、新たなテクノロジーやAIなどの技術と整合性の高い資金調達を組み合わせることで、大切な資源だけでなく文化も守ることができる —— 多様な課題の解決に向けた糸口になるこの考え方は、FICCのパーパスの体現においても、とても参考になる考えだと思っています。
密接に関連する自然保護と人間文化の保護

そしてもう一つ。官民協働や持続的な仕組みづくりにおけるヒントとして、CBD COP16(国連生物多様性条約 第16回締約国会議)についても紹介します。
このCOP16での大きな成果として注目されたのが「カリ基金」の設立です。生物の遺伝資源に関するデジタル配列情報の利用による利益を、公平に分配する仕組みが導入され、基金の50%を先住民や地域コミュニティに配分されることが合意されました。詳細は今後決定される予定ですが、女性や若者を含むこれらのコミュニティが利益を共有できるようになると期待されています。
自然から利益を得ている企業が、その収益を、生物多様性のために貢献し、支援を最も必要としている人々や地域に利益を回す —— このカリ基金の事例は、お金の流れが明確で、具体的なステークホルダーが見える理想的な仕組みです。FICCにおいても、「自分たちの意義ある活動によって、お金の流れを変える」という考えを大切に活動していますが、こうした倫理観と透明性が、お金の流れに責任と意味をもたらすと感じます。
先程、ブラジルの話の中で、大切な資源だけでなく文化も守るという話をしましたが、ここでも興味深い研究結果を紹介したいと思います。「生物多様性ホットスポット※1」は、人間の言語の多様性も保たれているというものです※2。現在、世界の3分の2近くの言語が話者1万人未満の人々によって維持され、その多くがこれらの保全優先地域に集中し、話者である先住民族は自然の生態系に依存した生活を送っています。つまり、自然を保護することは、人間の文化を守ることでもあるという考え方です。
自然保護と人間文化の保護とは、「人が生きていくために、必要な自然との関係性」を見出すことかもしれません。
ここで、FICCのパーパスから生まれたプロジェクト『COLOR Again』での体験について少しお話します。『COLOR Again』では「記憶から資源に出会う」というワークショップ体験を大切にしていますが、このワークショップを開発している中で、私自身の幼少期の記憶を振り返る機会がありました。自分が育った地元の情景、そこに登場する家族や大切な人たちとの思い出。地域の自然環境があるからこそ、その人たちとの思い出があり、自分やその人たちの価値観がある…ということに気づきました。人と自然環境との関係も、「自分が大切にしたいことを、自然環境があるから大切にさせてくれる」という風に見出すことができるのではないでしょうか。
※1 地球上で生物学的に特別豊かでありながら、同時に人類による破壊の危機に瀕している地域で、現在、世界で36カ所が選定されており、日本もその一つです。
※2 動物学者で、IUCN副理事長でもあるラッセル・A・ミッターマイヤー博士による研究。
自然環境との“関係の質”を測る、新たなフレーム
新たな経済指標となっていくBeyond GDP

昨年のアドテック東京での登壇時にも話し、これまでもみんなに伝えている”Beyond GDP”。GDPだけでは測れない、国民が実感する豊かさや幸せを評価するための新しい指標として、“Beyond GDP” という考え方が、国際社会の共通の枠組みとして本格的に動き出すと言われています。
2024年の国連未来サミットにて「Beyond GDP」の枠組みを策定していくことが合意され、SDGsの目標達成の促進だけでなく、人々のウェルビーイングや地球環境の持続可能性などを考慮した「指標」の開発がこれから期待されています。
指標の開発に関連して、Beyond GDPへのアプローチとして、“Comprehensive Wealth”(包括的な富)という考え方が提案されています。これは、より広範な「富」の概念として、物質的な財産だけでなく、従来の経済指標が捉えきれない、人間資本(教育や健康)、自然資本(環境や資源)、社会資本(コミュニティや信頼関係)など、多様な資本を指標として包括的に評価する考え方です。指標をつくるということは必要なことだと思いますが、この指標を見た時に、実は違和感を覚えました。
大切にすべき本質や共有し合う価値観よりも、指標をつくることが目的になっているような感覚…。リベラルアーツの哲学に基づいた、世界を探求し問いを立てていく姿勢とは異なり、無意識のうちに既存の枠組みの中で、画一的な指標や評価によって結論を導こうとしているのではないか ——。
Beyond GDPの指標に向けた、次世代の若者が提唱する観点

そんな違和感を探るために、情報に触れている中で出会ったのが、世界中の若者を対象に国連ジュネーブが開催した「Beyond GDPエッセイコンテスト」です。まさにエッセイのテーマは、「Beyond GDPへの新たな枠組みや指標への移行において、大切にすべき観点や価値観」について。選ばれたエッセイの中でも、特に伝えたい2つのエッセイをみんなに紹介したいと思います。
<Paula Borgesさん、18歳、ブラジル>
ブラジルのPaula Borgesさんは、先ほどのブラジルの気候変動対策の話の中で触れた「先住民族」について言及しています。
「経済成長はWell-beingを実現する手段であって、Well-beingそのものであるわけではない」と唱えました。彼女は、南米の先住民族が使っているケチュア語とアイマラ語の言葉である “Sumak Kawsay※”(スマック・カウセイ ー 「良く生きる」を意味する)を紹介し、この概念がこれからの発展のためのヒントとなると伝えています。そして、多様な文化的視点を取り入れた倫理観のあるイノベーションと持続可能な生産、そして人々が豊かに暮らせる権利と個人と国家間との協力体制の必要性を訴えました。
※ 元のケチュア語のフレーズでは、スマックは地球の理想的で美しい充実を指し、カウセイは「生命」、つまり尊厳、豊かさ、バランス、調和のある生活を意味します。同様の考えは、南米の他の先住民族コミュニティにも存在します。
<Rose Holmさん、29歳、デンマーク>
また、デンマークのRose Holmさんは、まさに私が覚えた違和感について伝えています。
「今あるWell-beingを測るフレームワークを、経済資源の範囲を視野を身体的、知的、社会的、自然的資源まで広げて改革したとしても、根本解決には至らない」と指摘をしています。彼女は、私たちの中に深く根付いている「良い生活は常に世界の範囲を拡大すること」という考えを見直していく必要性を訴え、「Well-beingの考え方を、資源のレベルではなく、世界との関係の質を中心に据えたものにする必要がある」と提案しています。世界との関係の確立によってWell-beingが達成されるという考えが広まれば、生産や消費を抑えることが制約ではなく、自分たちのより良い生活を実現するために必要なこととして理解されるのではないか?と唱えています。
どちらのエッセイもとても本質的な視点で、こうした次世代の若者たちの意見を取り入れていく大切さを感じます。

このスピーチを通じて、これから大切にしていきたい考え方をみんなに伝えたいと思います。
これまでの “GDPの世界” は「保有や拡大への欲求」や「物質的な豊かさ」を追求する構造のもと、自然環境は消費される資源として扱われてきました。その結果、今日お話ししたように気候変動問題は世界的なリスクとなり、経済の根本的なあり方が問われています。
本当に大切にすべきなのは何か。何を守り、未来に残していきたいのか ——。大切にしたい価値観や文化、そしてWell-beingを中心に据え、自然環境との関係を「私たちが大切にしたいことを大切にさせてくれる存在」と捉えることで、経済のあり方は変わり、“Beyond GDPの世界” へと転換していくのではないでしょうか。
この転換には、思考のパラダイムシフトが必要です。これまで当たり前とされてきたことに対し、思考を自由にし、新たな問いを立てる。まさにFICCが大切にしている「リベラルアーツ」のアプローチです。そして、「ブランドマーケティング」の力によって、企業やブランドが新しい市場を創り出していく。まだ存在しない市場を生み出すには、イマジネーション(想像)とクリエイティブ(創造)の力が欠かせません。こうして、お金の流れを変えていくこと。これが私たちFICCのミッションです。
全ての企業に機会がある:未来に向けた私たちの役割
自然環境との “関係の質” を測る、新たな持続可能な経済価値のフレーム。豊かさの中にある人間・自然・文化の関係性を見つめ直し、マーケットの捉え方を変えてビジネスを再構築する ——。
それは、そもそもの考えを180度転換することであり、まさにリベラルアーツの本質でもある “囚われからの解放” により実現されると信じています。私たちは無意識のうちに、既存の枠組みに囚われがちです。本当にそうなのか、大切なものは何なのか…。それはお互いの違和感やパースペクティブを大切にしながら、問いを立て、対話の中から新しい世界の捉え方や可能性が見えてくる。180度見方を変えたからこそ見えてくる新たな市場の中で、持続可能なビジネスを創造し、それを企業の本業として実現していくこと。これこそが、社会価値と経済価値の両立において不可欠だと考えています。
Beyond GDPにおいては、すべての国が発展途上にあります。新たな持続可能な経済価値のフレームを構築し、お金の流れを変えていくこと。その実現には、企業がボトムアップの視点から考え、積極的にアクションしていける機会があると思っています。FICCはブランドに向き合う立場だからこそ、世界の動きを深く理解し、リベラルアーツの哲学を大切に問いを立て、ボトムアップで貢献していく存在でありたい。

みんなが生み出した資源と機会をもとに、ビジネスとして捉えていく社会テーマをまとめたFICCの「ビジョンウィール」。この「ビジョンウィール」に重ねながら、向き合うブランドの事業ポートフォリオや活動をパーパスの観点から見つめ、新たな市場の中で持続可能なビジネスを創造し、お金の流れを変えていくために、どのような機会や可能性があるかを探求していく存在でありたい ——。私たちFICCは、ブランドの力になる役割があるからこそ、ブランドに関わる人たちと共に、この大きなテーマに向き合い、体現していくことができる一年になるように。

最後に、2024年のノーベル平和賞を受賞された日本原水爆被害者団体協議会の代表委員である田中煕巳(てるみ)さんの演説を紹介して、年始のスピーチを終わりたいと思います。
—— 戦争責任を取るのは「過去に対する責任」を取ること。核兵器廃絶は「未来に対する責任」を取るということ。
—— 自分たちが生きていく中で、どんなバトンを受け継ぎ、どんなバトンを次の世代に渡していくのか。そう問いかけていると私は感じました。みんなにも2025年がはじまるこのタイミングで伝えたいメッセージです。
そして、この問いは、すべての人、すべての企業に対するメッセージでもあると感じました。全ての企業に機会がある ——。持続可能な未来の実現のために、クライアントの事業や資源の再解釈を行い、コミュニケーションの一つひとつの機会に、持続可能な市場に対して本業のベクトルを向けていく動機を与えられる存在になれるように。
この年始スピーチを、みんなの想いやブランドに関わる人たちの想いと共に、社会価値と経済価値の両立を実現する力に変えていく。機会は必ずあります。その機会を自ら想像し創造するのが、私も含め、FICCメンバーであると信じています。